お父さんは迷っているらしく、わたしとあずきさんの顔を交互に見た。
「ぼくはきみたちのことが好きだ。でも、それは、言ってみれば家族のようなもので、だから、妹のようなもので……」
もなかさんはうれしそうに目を細めて、
「わたくしも栄寿さまのことを兄のように思っていますわ」
「お父さんはわたしとセックスすることで、もうとっくに一線を越えてるんだよ。ねえ、わたしたちはみんな家族のように愛し合ってるのだと思わない? それは恋愛とは違うけれど、愛しているんだからセックスしたっておかしくないわ」
わたしが援護すると、もなかさんはダメ押しに、
「栄寿さま。わたくしはあずきを愛しています。でも、わたくしにとって男性は生涯、栄寿さまただひとりですわ。わたくしを女にした責任を取ってください」
そう言って、微笑んだ。
お父さんはとうとう観念したように大きく息を吐き出した。
「正直言うと、ぼくにはまだよくわからない。ぼくは最低の人間だ。でも、そこから這い上がりたい。そのための正しい道がきみたちとセックスすることなのだというなら……。ぼくのいちばん信頼している人たちがそう言うなら、ぼくはそれを信じようと思う」
わたしは後ろからお父さんの首に抱きつくと、愛しい気持ちをいっぱいに込めて、
「ほんとにダメな人ね。いま問題なのは、お父さんがわたしたちとセックスしたいかどうか、その一点よ。どうなの?」
お父さんは顔をあげると、わたしたちの顔を順番に見た。それから恥ずかしそうに、
「したい」
とだけ言った。
その返事に満足して、わたしは後ろに下がると、あずきさんの膝の上に腰を下ろした。あずきさんが背後から抱っこするように、わたしに腕を回した。
すぐそばで、お父さんともなかさんが見つめ合っている。どうするのかと見ていると、ふたりとも急に照れたのか、うつむいてしまった。
「よ、よろしくお願いします、栗原さん」
「こちらこそ、未熟者ですが」
お父さんが怖ず怖ずともなかさんにすりよって、そっと肩を抱いた。わたしとあずきさんの視線が気になるのか、キスするのをためらっている。そのまま先に進めないのではないかと心配になった。
「わたし、思うんだけど、お父さんはもなかさんとあずきさんのことを名前で呼んだ方がいいんじゃないかな。家族なんだから、いつまでも他人行儀はどうかと思うんだ」
「そうだね。そして、もなかは栄寿さんのことを『お兄ちゃん』と呼ぶといいよ」
わたしとあずきさんが囃し立てると、ふたりは顔を赤くした。もなかさんは文句を言いたそうだったけど、そんな場合ではないと思い直したらしく、栄寿さんに向き直って、
「に、兄さん」
案外もなかさんはロールプレイが好きなのかも。お父さんはといえば、恥ずかしさに耐えかねた様子で顔を歪めた。でも、逃げちゃいけないと思ったのだろう。
「もなか」
そう言って、もなかさんにキスをした。その瞬間、わたしを抱くあずきさんの腕がぴくんとなった。わたしは首を回して、あずきさんにささやいた。
「心配ですか?」
「ちょっとね。恋愛から逃げるのをやめたもなかが、男の人を好きになってしまうんじゃないかって不安はあるよ。ふたりが特別な関係になるのを防ぎたいから、あたしも栄寿さんとセックスするんだ」
兄と呼ぶように仕向けたのも、男女の関係ではなく兄妹の関係にとどまらせるためなんだろう。
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