ギリさんの部屋は人通りの少ない場所にあるアパートの二階だった。向かいは廃ビルになっていて、どうやら取り壊しの準備中のようだ。街灯もほとんどなく、ほかに住んでいる人の気配もない。気が滅入るほどさみしい雰囲気だった。
ワンルームの部屋は男性の一人暮らしにしては片付いていた。カーテンレールに洗濯物が干したままになっている。週末にまとめて洗濯をして、毎朝その日に使う下着を物干しハンガーから取るんだろう。シャツにアイロンがかかってないのも納得だ。
ギリさんが暖房を入れ、電子レンジで日本酒の燗をつけた。
フローリングの床には敷物がなかったので、あたしたちはベッドに座った。
「すこしなら、あたしもお酒を飲んでもいいでしょ?」
「ちょっとだけだぞ。まだ高校一年生なんだから」
「ギリさんって、お父さんみたい」
ギリさんはカップ酒を一口すすってあたしに手渡した。カップに口を近づけると、独特のツンとする匂いがした。援助交際のときお酒を飲ませてもらうことはある。ジュースみたいなカクテルが好きだ。子供の頃、お父さんがお猪口で飲んでいる日本酒をねだったことがある。あのときは一口飲んでへんな味だと文句を言ったっけ。
「沙希ちゃんはお父さんが好きだったんだね」
そう尋ねたギリさんの口調に慎重な心配りを感じたあたしは、甘えた笑顔を作った。
「小学五年生のとき、お父さんに強姦されたんです」
「ご……。え?」
「お父さんにレイプされたんです。夜、お父さんがあたしの部屋に来て。怖くてたまらなかったですよ。何度も叩かれて、乱暴に犯されて、すごく痛かった。性についての知識はそれなりにあったから、自分が何をされたのかはちゃんとわかってましたよ。あたしって、エッチなことに興味津々のエロ小学生だったんです。えへへ」
あたしが笑顔のままなので、ギリさんは困惑した顔を見せた。
「あたしの中に射精したあと、お父さんはすごく悲しそうだった。そのときあたしは『ああ、お父さんはお母さんよりあたしの方を好きになっちゃったんだ』って思ったんですよ。笑っちゃいますよね。それ以来、何度もお父さんとセックスしました。デートだって言われてホテルに連れて行かれて、縛られて、叩かれながら犯されるんですよ。やめてくれるよう泣いて頼んだけど、やめてくれませんでした」
「お母さんは助けてくれなかったの?」
あたしはかぶりを振った。
「むしろ、お父さんとのことを嫉妬してあたしに手を上げました。お父さんはお母さんとは口も聞かなくなってましたから」
「ひどい話だ」
「父親による娘への性的虐待、って思うでしょ? でも違うんです。お父さんはちっとも悪くない。悪いのはぜんぶあたしなんです。お父さんから聞かされたんです。あたしはお父さんの本当の子供じゃない。お母さんがほかの男と不倫して妊娠した子だって。お父さんはそのことをずっと知らなくて、お母さんにだまされてたんです。それを知ったお父さんは、あたしのことが許せなくて、憎くてたまらなくて、悩んで、苦しんで、どうしようもなくなって、あたしを強姦するしかなかったんです」
部屋が温まってきたので、ブレザーを脱ぎ、またお酒を一口飲んだ。
「その話を聞いてからは、すすんでお父さんのおもちゃになりました。お父さんに許して欲しかったから。お父さんのことが大好きだったから。でも、お父さんはあたしが生まれてきたことがどうしても許せなかったんです。あたしは売春をさせられました」
「そんな……、父親が娘に売春を強要するなんて……」
「最初は十一歳の誕生日でした。あたしが自分の誕生日を二度と祝えないようにするためだったんですよ。お父さんは知らないオヤジを連れてきて、あたしを強姦させました。お父さんはあたしを憎んでるんだと思い知らされました。結局、お父さんは家を出て行ってしまい、しばらくして正式に離婚しました。あたしが六年生のときです」
話してるうちに、感情が鈍麻していく。他人の身の上を話しているような感じ。
「お母さんはすごく腹を立てて、『あんたさえ生まれてこなければこんなことにはならなかった』と言って、あたしを叩きました。実際そのとおりだったので、あたしは何も言い返せませんでした。ある日、学校から帰宅したとき、家の中にいた二人組の男に襲われました。夜遅くなるまでリビングで繰り返し強姦されつづけました。お尻も犯されて、フェラチオもさせられました。精液を飲まされて、おしっこも飲まされました。その日にかぎって、お母さんは帰ってきませんでした。男たちが出て行ったあと、真っ暗なリビングに横たわったまま、夜が明けるまで立ち上がることもできず、意識を失うこともできませんでした。あとでわかったんですが、ぜんぶお母さんが仕組んだことだったんです。お父さんと離婚することになった原因があたしだから、あたしに復讐するために男を雇ってあたしを強姦させたんです。それほどまでに、あたしはお母さんに憎まれてたんです」
ギリさんのあたしを抱く手がこわばった。
「その頃のことは、あまりよく覚えてません。あたしは自分の部屋から出ることができなくなりました。家の外に出るのも怖くてできません。震えて耐えるしかなかったです。自宅で監禁レイプされたら、もうどこにも安全な場所はないじゃないですか」
[援交ダイアリー]
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