夕飯のあと、宿題があるからと言って、あたしは自分の部屋に戻った。春休みなのに宿題があるのか、と、お父さんが聞いたけど、あるんだ。進学校だから。しかも、どっさりと。
でも、ほんとに宿題をしに戻ったわけじゃなかった。
イスに座ると机の引出しのカギを開け、中から何冊かのノートを取り出した。あたしは小説家になるのが夢だ。ノートには異世界ファンタジーものの小説を書きためてあった。魔法の国の王子を助ける、聡明で行動力があって美しく有能な魔法使いの妹の物語だ。キャラクターの名前にはあたしとお兄ちゃんの名前を使っていた。もちろん主役の二人は禁断の恋に落ち、ちょっぴりエッチなシーンも出てくる、あたしの夢が満載の他人にはとうてい見せられない超絶赤面ものの内容だ。
小説のノートの下から、もう一冊別のノートを取り出した。
表紙に黒のサインペンで、「大好きなお兄ちゃんへ」と書かれている。高校の入学式のあと、文房具屋に寄って買ったものだ。家に帰ってから、表紙に「お兄ちゃんへ」と書いた。それから一週間して、「大好きな」という言葉を付け足した。
それは日記だった。
日増しに募っていくお兄ちゃんへの気持ちを吐き出すために用意したのだ。誰にも言えないこの気持ちを書かずにいられなかった。書かないとおかしくなりそうだった。
お兄ちゃんのことが好き。高校生になってからずっと好きだった。
特別なきっかけがあったわけじゃない。気がついたらもう好きになってた。自分の気持ちをはっきり自覚したときは、けっこうショックだった。子供のころから一緒に暮らしてきた家族なのに、恋をしてしまうなんて。誰にも相談できない。告白することも許されない。
苦しかった。だから書いた。
あたしはベッドに倒れこむと、仰向けに寝そべってノートを掲げた。表紙をめくって最初のページを見てみる。一年前のあたしはこんなことを書いていた。
ねえ、お兄ちゃん。あなたの妹はお兄ちゃんのことを好きになってしまったみたいです。
ヘンな子だと思いますか? 思うでしょうね。自分でもかなりヘンだと思っています。でも、お兄ちゃんのことを考えると、胸の奥がキュンとなって、せつなくて、苦しくて、自分で自分がわからなくなってしまうのです。
これって恋ですよね? 恋なんです。私はお兄ちゃんの妹なのに、お兄ちゃんに恋をしてしまったのです。
いけないことだとはわかっているんです。兄と妹はけっして恋人同士にはなれないんですもの。でも、私がお兄ちゃんのことを一方的に想い続けるくらいは許されるはずです。永遠に片想いだってこともちゃんとわかっています。
伝えることが許されないこの気持ちを、いつかお兄ちゃんに届けられたらいいのに。だから、せめてこのノートの中でだけ、お兄ちゃんに告白します。
お兄ちゃんのことが好きです。大好きです。
あたしはノートを閉じて、枕もとに置いた。しばらく天井をながめていたが、どうにもならないことなんだと改めて思い、現実から逃避することにした。あたしは、タイツとパンツを膝までずり下ろした。昼間途中でやめちゃったから、続きをしよう。
両手を股間に伸ばし、ゆっくりとアソコをこする。気持ちが高ぶっているせいか、すぐに濡れてきた。膝を立てて少し開く。パンツごとタイツを足首までずり下げると、足を使って脱ぎ捨てた。自由になった膝を肩幅より少し広いくらいに開いた。ちょうど人がはさまるくらいの広さだ。空想の中で、お兄ちゃんがあたしの股のあいだに割り込んできて、そのまま覆いかぶさってくる。
「お兄ちゃん、だめだよぉ。あたしたち兄妹だもん」
エッチな気分を出してささやく。
「ああん、そんなとこ触っちゃダメなのにぃ」
右手でブラウスのボタンを一つまた一つとはずしていく。
オナニーをするようになったのは高校生になってからだ。最初のうちはパンツの上からアソコをこすったり、ブラジャーごしに胸を揉んでみたりするだけだった。快感を覚えるにしたがって、徐々にエスカレートしていった。もっと気持ちよくなりたくて、雑誌に載っていたやり方を試すようになった。クリトリスでイクことを知ったのは最近のことだ。
ブラウスの前をはだけ、ブラジャーをずらして乳房をあらわにすると、左手で乳首を、右手でクリトリスを愛撫した。
「お兄ちゃぁん」
思い切り甘ったるい声を出して、空想のお兄ちゃんと戯れる。
お兄ちゃんとセックスしたい。このところのあたしはそんなことばかり考えていた。オナニーの回数も増えた。お兄ちゃんがいなくなっちゃう。そう思うと胸が張り裂けそうで、そんな自分を慰めるために、最近はオナニーのやり方も激しくなっていた。以前はクリトリスを刺激すると、強すぎる快感におかしくなりそうで、軽くイッたあとは怖くて続けられなかったのに。
けれど、いまは寂しくて、悲しくて、苦しくて、何も考えられなくて、あたしはひたすら指を動かし続けた。
「はう、あう、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃぁぁぁん!」
あたしは身体を弓なりにそらせ、全身をぶるぶる震わせた。ドロッとアソコから愛液が溢れ出た。
「あふぅ」
全身の痙攣がおさまると、力が抜けて、身体がベッドに沈み込んだ。
ちょっと早すぎたな。もっと長引かせて、お兄ちゃんとの空想のセックスを堪能するつもりだったのに、焦ってすぐにイッてしまった。
けだるさを感じながらブラウスのボタンを元どおりにはめる。ときどきフラシュバックするように快感がおしよせて、そのたびにお腹のあたりの筋肉が勝手にへこんで硬直した。そうするうちに呼吸が落ち着いてきた。ゆっくりと去っていくオーガズムの余韻に浸りながら、あたしは襲ってくる睡魔に身をまかせた。
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