いけない進路相談 (22)

先生を脅迫しているのだと思うと、真琴は自分が怖くなった。だが、これからもっと恐ろしいことをしようとしているのだ。

(本当に先生とヤルわけじゃない……。先生があたしを襲ったように見える証拠ができればいいんだ)

真琴は窓の外を流れる風景をぼんやりと眺めながら、膝の上にのせたバッグを両手で抱きしめた。バッグの中には、小型の家庭用ビデオカメラにボイスレコーダー、痴漢撃退用のとうがらしスプレーから、スタンガンまで持ってきていた。それらの品の感触を手さぐりで確かめる。

(すべて操のためだ。でも、あの子はあたしを恨むだろうな。すぐにはわかってもらえないかもしれないけど、操をいまの状況から救い出すためだ)

矢萩は郊外にあるラブホテルの駐車場へ車を乗り入れた。フロントは無人式だった。真琴は矢萩に促されて部屋を選ぶパネルの前に立たされた。緊張で足がうまく動かない。

「どの部屋がいい?」

矢萩が訊いた。

どうしていいかわからず、真琴は思わず矢萩の顔を見上げた。どういうわけか矢萩は笑みを浮かべている。さっきまでの態度とちがって、真琴を見下ろす視線は優しい。真琴と関係を持つ決心をして吹っ切れたのだろうか。

見つめられていると、動悸がはげしくなった。顔が熱くなるのを感じて、パネルのほうに視線を落とした。

パネルには各部屋の写真がはめ込まれていた。ライトがついている部屋が空きなのだということはわかる。部屋ごとに休憩と宿泊のボタンが並んでいた。

「ここにするわ」

うわずった声でそう言いながら、休憩のボタンを押した。部屋を吟味する心の余裕はなかった。自分がどんな部屋を選んだのか、真琴自身にもよくわからなかったほどだ。

矢萩は鍵を取ると、真琴の肩に手を添えて、エレベーターのほうへといざなった。

矢萩に連れて行かれたのは、高い天井に派手なシャンデリアが光る広々とした部屋だった。見たこともない大きなベッドが部屋の真ん中に置かれていた。豪華だが落ち着いたシックな雰囲気だ。

「震えているね」

と矢萩が言った。

真琴はビクッとして体を固くした。息苦しくなるのを必死に抑え平静を装いながら、目だけを動かしてカメラをセットする場所を探す。

「さ、さきにシャワーを浴びてよ」

そう言って、真琴はバスルームのほうへ目をやった。そこにあるのはガラス張りのお風呂だった。こっそりカメラを仕掛けたいのに、これじゃお風呂の中から部屋の様子が丸見えだ。

矢萩は真琴の言葉を無視して言った。

「ねえ、大友さん。男性経験がないことを恥ずかしがる必要はないし、焦って初体験を急ぐこともないと思うんだ」

真琴はどきりとした。

「なに言ってるんですか。先生は担任なんだから、あたしの噂は聞いてますよね? おおぜいの男の子をとっかえひっかえしてるって」

強がりを言ったものの、どうしてバージンであることがバレたのだろうかと、内心は焦っていた。

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