「わたしに気を使わなくてもいいのに」
目を閉じて、お父さんの胸の鼓動に耳を傾ける。
「那由多さんは小学生だった莉子ちゃんをぼくのところへ連れてきては、どこかに遊びに連れて行ってやってほしいと、よく頼んでいた。仕事が忙しかったっていうのもあるだろうけど、いま思うと、親子の思い出を作らせたかったのかもしれないな」
そうかもしれない。
「ぼくは那由多さんのことが好きだった。兄さんの恋人だと知っていたのに、性的な関係を持ってしまったことが、すごく後ろめたかった。でも、好きだという気持ちは止められなかったんだ。莉子ちゃんが生まれたときは、兄さんを恨んだ。那由多さんのことを傷つけて、子供ができたのに結婚しようとしなかった兄さんのことを最低の人間だと思った。ふたりを結婚させなかった母さんのことも恨んだ」
「うん……」
「そうして那由多さんに会う機会もなくなってしまい、数年後に那由多さんは柊さんと結婚してしまった。柊さんにはすごく嫉妬したよ。でも、諦めなきゃいけないと思った。実際、諦めることができたと思ってた。兄さんの結婚式で再会するまで」
「そう……」
「莉子ちゃんと会って過ごすうちに、ぼくはきみに那由多さんの面影を求めるようになっていった。莉子ちゃんはお母さん似だからね。そして、きみがだんだん成長してくると、ぼくは莉子ちゃんに性的な欲望を覚えるようになってしまった。無邪気に抱きついてくる莉子ちゃんに欲情してた。那由多さんに手が届かないのなら、かわりに娘であるきみと……。そんな不埒なことを考えてしまった。こんな話をしたら軽蔑するだろうね」
「そんなことないですよ。話してくれる相手は、わたしだけなんでしょ?」
お父さんは相当な覚悟を持って話している。わたしには聞く義務がある。
「那由多さんの代わりに莉子ちゃんとセックスしたい……。でも、きみはぼくの姪だ。許されることじゃない。悩んだ末、ぼくは忌まわしい選択をしてしまった。きみと同年代の別の少女たちとセックスするようになったんだ」
お父さんが声を震わせた。
「最初は家庭教師をしていた小学生の女の子だった。その子とは一年近く付き合って、毎週セックスしていた。でも、莉子ちゃんを抱きたいという気持ちは消えない。これじゃあいけないと思って、ぼくは引っ越した。きみから離れるために。それからも、おおぜいの小中学生の女の子と関係を持った。兄さんに知られるまで。ぼくは最低の人間だ。那由多さんの身代わりに莉子ちゃんを求め、莉子ちゃんの身代わりにたくさんの幼い女の子たちを傷つけたんだ」
「それが嫌で、ここでラブドールの子たちと暮らすことにしたんですね」
これはショッキングな話だった。お父さんがロリコンになった原因はわたしだったんだ。小さいころのわたしはお父さんを性的に誘惑するようなことをしていただろうか。さっき見た夢を思い出す。してたかもしれない。
わたしとママが、お父さんをこんなに苦しめていたんだ。
かわいそうなお父さん。いっぱい傷ついたんだね。
「莉子ちゃんのことが好きだ」
お父さんがわたしを抱く腕に力を込めた。
「ずっときみに那由多さんの面影を見ていた。それは確かだ。でも、さっきの那由多さんとの電話でわかった。いま、ぼくが好きなのは莉子ちゃんだ。お母さんの代わりなんかじゃない。きみが好きなんだ」
お父さんは、場の空気を変えたいと思ったのか、大げさに息を吐き出した。
「でも、まさか莉子ちゃんと親子だったなんてね。ぼくは恋愛運がないんだな」
「叔父と姪だって恋愛できないことに変わりはないですよ」
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