第15話 ロンリーガールによろしく (11)

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 車から降ろされ、雨の中を新庄に手を引かれて建物の玄関まで走らされた。

 ドアの取手には鎖がぐるぐるに巻き付けられていた。津谷が鎖に取り付けられたダイヤル錠をはずした。あたしは中に連れ込まれた。

 空き家だった。薄暗い室内は広く、元は喫茶店だったらしい。窓ガラスは割れておらず、室内も整っている。テーブルや椅子の類はない。部屋の真ん中には、新庄たちが持ち込んだものだろうソファベッド。床にはマットが敷かれていた。

「明かりをつけろ」

 新庄の指示で南山が照明をつけた。建築現場で使うような持ち運び式の照明灯だ。

 ついこの間、これと同じ状況を経験した。ワンボックスカーで拉致され、空き家に連れ込まれて、似たような照明のもとで集団強姦ビデオを撮影されそうになった。前回はたまたま大家さんらしい人が来て難を逃れることができた。でも、こんな山の中、それも土砂降りの雨の中じゃ、通りがかる人なんているわけない。

 こんどは助からない。

「鳴海、お前は俺たちの性奴隷だ。きょう、お前がこの街に来たのを知ってるヤツはいるのか? お前がいなくなっても心配するヤツはいないだろ? 心配するな。これからは俺たちがお前の家族だ」

 新庄が耳元でささやいた。

 あたしが絶望に沈んでいくのを見て楽しんでいる。おびえて震えているあたしを、津谷も南野も清川も、ニヤニヤしてながめている。強姦するのを焦る必要はない、時間はいくらでもある、と言いたげに。中学のときの集団強姦の思い出にひたっているのか。

「鳴海ちゃん、真っ青じゃないか。もう家には帰れないんだし、あきらめて受け入れた方が楽になるってものだぞ」

 と、津谷があたしの髪をなでながら言った。あたしが目を見開いたのを見て、新庄が笑った。南野と清川もだ。

 ――もう家には帰れない?

 こいつら、あたしを監禁してセックスの道具としていたぶりつくすつもりなんだ。

「し、新庄、ぼ、ぼくも女の子に、触ってもいい? 勃起、止まらない。その子、早くセックスしたい」

 漆山が近寄ってきてあたしに手を伸ばした。新庄が蝿を追い払うように漆山の手をはねのけた。

「お前は俺たちが楽しんだあとって言ってるだろうが。やり方も知らねえくせに。俺たちがレイプするのを見て勉強してろッ」

 と、一喝したあと、新庄はまた猫なで声で、

「鳴海さぁ、そんなに怖がるなよ。俺たち、チンポとマンコの深い絆で結ばれた仲じゃねえか。実を言うとよ、俺はお前が忘れられねえんだよ。安心しろ。俺はお前が気に入ってるんだ。ずっとそばに置いて可愛がってやるからよ」

 とうとうあたしはパニックを起こして悲鳴をあげた。無駄な足掻きだ。男たちは面白そうに見ているだけ。いくら叫んだって助けなんてこない。

 新庄があたしを離した。あたしはドアに向かって駆け出した。男たちの笑い声が聞こえた。漆山があたしの前に立ちふさがって抱きついてきた。向きを変えて逃げると、漆山が追いかけてきた。新庄たちが「ほら、もうちょっとだぞ」と囃す。あたしは泣き叫びながら必死に逃げた。でも、逃げる場所なんてどこにもない。

 とうとう漆山があたしの腕をつかんだ。あたしはバランスを崩して転び、漆山があたしを抱きかかえようとして一緒に転んだ。仰向けに転んだ漆山の上に倒れる形になった。

 漆山に手首をつかまれていた。逃げられない。そのとき、部屋の隅に大型犬を入れる檻があるのに気づいた。中に首輪が置かれていてチェーンで鉄格子に結び付けられていた。それが何に使われていたのかすぐにわかった。檻の中にブラジャーが落ちていた。Bカップだ。檻の外にも一つ落ちていた。こちらはEカップで茶色のシミが付いている。

 それを見た瞬間、冷静さを取り戻した。頭の中が急激にクリアになった。強風で濃霧が吹き飛ばされて急に景色がはっきり見えてくるように、何もかもがはっきり見通せた。潜水艦のソナーみたいに、背後にいる新庄たちの立ち位置や息遣いまで把握できた。

 恐怖はまだ感じてる。でも、それを圧倒する気持ちが沸き起こってきた。勇気とかではない。運命に選ばれてしまったという実感。自分が生きている意味を悟ったという感覚だった。いい悪いの問題ではない。為すべきことを為せ。

 あたしはまだ自分のバッグを手にしていた。それが前回との違いだ。

 漆山に顔を近づけてささやく。

「ウルシー、新庄を殴ってくれたら、あなたが最初にセックスできるよ。ウルシーは強いもんね。いっぱいセックスしてあげる。あいつを殴って。おねがい」

 男を操るのはお手の物。漆山は充血した目を見開き、鼻息が荒くなった。セックスできると言われて興奮が一気に頂点に達している。あたしが漆山の上から離れると、漆山は勢いよく立ち上がって、怒り狂ったカバみたいに新庄に突進した。

 ほかの男たちは突然の事態にまったく動けないでいた。あたしはバッグから催涙スプレーを取り出し、出口のドアに向かって駆け出した。漆山が新庄に殴りかかり、津谷と南野が止めに入る。清川があたしに気づいて取り押さえようとした。

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