新婚不倫 (25)

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則夫さんは妻が不倫を否定するのを待っているのだろう。ウソでも否定すれば信じてくれるだろう。だけど、あたしは何も答えられなかった。

怖かった。

怖くて怖くて、震えることしかできない。

あたしは何をしてしまったんだろう。何を失ってしまったんだろう。

傷つけるつもりなんてなかった。

まっすぐ見つめる則夫さんの視線を受けとめきれず、あたしは目を伏せた。則夫さんが息を呑む音がした。

あたしは部屋の中がすっかり暗くなっているのに気づいた。いつの間にか日が沈んでいて、あたりは急速に暗くなっていきつつあった。

則夫さんが急に立ち上がって、ベッドから飛び降りた。裸のまま、きょろきょろ見回すと、窓からベランダに出た。すぐに部屋に戻ると、そのまま大股で寝室を出て行く。リビングへ行ったかと思うと、今度は風呂場のドアとトイレのドアを開ける音が聞こえた。その後で靴箱を開ける音がして、則夫さんが何かを床に叩きつけたのが聞こえた。

レオくんの靴が見つかったんだ。

涙が溢れてきた。嗚咽をこらえながら、ベッドの上で小さくなっていることしかできない。

壊れてしまう。

則夫さんとの幸せな生活が。

クローゼットに隠れているレオくんもすぐに見つかってしまうだろう。そうなったら……。

そうなったら、夫はレオくんをどうするだろう?

まさか、殺してしまうなんてことは……。

則夫さんが戻ってきて、寝室のドアを蹴り開けた。その剣幕にあたしは悲鳴をあげた。則夫さんはあたしに一瞥をくれると、クローゼットの前に立った。

もう探してないのはここだけだという顔で見つめている。則夫さんがクローゼットを開けたら、すべてが終わる。則夫さんもそれを察したのか、開けるのをためらっている。

「待って、則夫さん!」

あたしは則夫さんのもとに這い寄ると、足元にすがりついた。

「誰もいないから! 中には誰もいない。だから開けないで。オナニーしてたのよ。あたしひとりでエッチなことしてたの。それだけなのよ。だから、そこを開けないで。お願い……」

「奈緒美、お前は……!」

則夫さんがこぶしを振り上げた。あたしは思わず目を閉じて、体を固くした。だけど則夫さんはあたしを殴りはせず、震える腕をかろうじて降ろした。そしてクローゼットの戸に手をかけると、勢いよく引き開けた。

「ああ、だめっ」

おしまいだ。そう思って、あたしは両手で顔を覆った

全裸のレオくんがクローゼットの中で仁王立ちしていた。その視線はまっすぐに則夫さんを見つめ、臆するところは微塵もない。そして、一歩踏み出して、クローゼットの外に出た。

則夫さんがレオくんに掴みかかるだろうと思ったけど、そうはならなかった。それどころか、則夫さんは恐れをなしたように後ずさった。

「レオ……、どうしてお前が……」

則夫さんがつぶやいた。あたしは訳がわからないまま、ふたりの間に割って入り、

「則夫さん、お願い、このひとは……、レオくんは悪くないの。ぜんぶあたしのせいなの。あたしがレオくんを部屋に誘ったの」

レオくんは則夫さんを睨んだまま、あたしを脇へどかせた。

「もう奈緒美さんは関係ありません」

それからさらに一歩踏み出すと、

「悪いのはノリちゃんだよ!」

そう言って、則夫さんの頬をひっぱたいた。

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