道路の真ん中に歩み出す。人々が騒ぎ出す。
「おい、あの子、素っ裸だよ」
「アダルトビデオの撮影じゃないの?」
「すっげー、いい女」
「こらっ、見とれるなーッ」
快感だ。見られている。いやらしい目で見られている。
恥ずかしいけど、やっぱり気持ちいい。
サンダルの上に置いたメガネのほうをふりかえった。三メートルくらいか。危なくなったらすぐにもどれる距離だ。もうちょっと離れてみよう。
道の中央をゆっくりと歩いた。
まだ大丈夫。走ってもどれば消えられる。
命綱なしの綱渡り。これ以上ないほどのスリル。膝がガクガクする。興奮のあまりうまく歩けない。愛液が太ももを伝って滴り落ちた。
感じてる。すごく気持ちいい。
もう一度ふりかえってみた。めまいを覚えた。メガネのところまで二十メートルはある。いつの間にか遠くに来すぎてしまった。もし、誰かにメガネを拾われたら……。こんな街中に全裸で取り残されてしまうことになる。
急に怖くなった。顔がこわばっている。口の中がカラカラに乾いていた。
もどったほうがいい。
そう思ったとき、不意に声をかけられた。
「おねーさん、どうして裸なのぉ?」
驚いてふりかえると、三人の大柄な少年がわたしを取り囲んでいた。十六、七歳だろう。髪を金髪に染めて、ピアスを付けていた。暴力的な雰囲気に恐怖を覚えた。酒臭い息が顔にかかる。
「かわいいなあ、おねーさん。俺たちと気持ちいいことしよーよ」
ひとりがわたしの肩をつかんだ。小さく悲鳴をあげて飛びのいた。
「男が欲しいんでしょ? 俺たちと遊ぼうよ」
「おねーさん、裸で俺たちを誘ってたよね。責任取ってくれなきゃ」
少年の手が乳房に触れた。その手を払いのけて、メガネのところまで走ろうとした。少年たちが回りこんで行く手をふさいだ。
「逃げないでよ、おねーさん」
怖くてたまらない。こいつらはまともじゃない。きっと集団レイプされる。それだけですむかどうか。仲間を呼ばれたらどうしよう。どこかに監禁されて何十人も相手をさせられるに違いない。そんなの絶対にいやだ。
わたしはくるりと向きを変えて、全速力で駈け出した。メガネを置いた場所からは離れてしまうけど、いまはあいつらから逃げなきゃ。
全裸で走り抜ける女を見て、誰もが驚いてふりかえった。少年たちに追われているのに気づいても、助けようとする人はいない。
少年たちが追いかけてくる。わたしは走るのが速いほうじゃない。少年たちがすぐに追いついてきて、わたしを取り囲んだ。すぐに捕まえようとはせず、獲物をもてあそぶようにわたしに触れてくる。
「やめてっ」
ひとりを突き飛ばして、わたしは路地を曲がって逃げた。なんとかメガネのところまでもどらないと。
「おい、向こうにまわれッ」
「二手に分かれろ。先回りして追い込め」
そんな声が聞こえる。うしろをふりかえると、少年たちは脱いだTシャツを手に持って振り回していた。奇声を上げて、わたしを追い詰めようとしている。
[目立たない女]
Copyright © 2011 Nanamiyuu