第3話 校内美少女ランキング (06)

[Back][Next]

「そうだ。管理人がその部室の主とは限らないが、重要な手がかりだな。目撃者がいるかもしれない。これから聞き込みにいくとしよう。いっしょにくるかね?」

「いきます」

「ところで、きみは香水をつけているのか? 甘い匂いがする」

いきなり別の話題をふられて戸惑った。香水をつけるのも、お化粧するのも、髪を染めるのも、ほんとは校則違反になりかねないことだ。生徒会長からしたら、あたしの外見は問題視すべきことなのかもしれない。

あたしは急に怖れをなして岡野会長から離れた。会長は苦笑して、

「別に糾弾しようというのじゃない。派手過ぎなければ構わないと思うし、わたしだって学校メイクはしている。その……、よかったら銘柄を教えてもらえないかと思ってね」

会長がはにかむ姿を見て、あたしはほっとして微笑んだ。この人と友達になれたらいいのにな、と思った。

「バッグに入れてあるので、あとでお貸ししますよ」

そのとき、会長の手の中であたしのケータイの着メロが鳴りはじめた。会長の顔がまた不機嫌になった。

「きみに電話だ」

と、会長はケータイを差し出した。画面には『拓ちゃん』と表示されていた。

あたしはケータイを受け取って電話に出た。

「もしもし、拓ちゃん?」

『おう、沙希。あさってはうちに泊まりにくるだろ? 文化祭一日目だからひょっとして友達と別の約束があったりするか?』

「ううん、いつもどおりお邪魔するよ」

『そうか、じゃあ、母さんにもそう言っとくよ。じゃあな』

「うん、じゃあね」

電話を切ると、岡野会長があたしをにらんでいた。すぐそばにいたので、電話の内容がぜんぶ聞こえてしまったようだ。でも、会長が怒るようなことじゃないと思うけど。援交相手からの電話だったならともかく。あたしと拓ちゃんのことでどうして――。

……いや。つまり、そーゆーことか。

「きみはさっき、鳴海とは付き合っていないと言っていたと思うが。実際には家に泊りにいくような仲なのか。しかも両親も公認の仲なのだな? 恋人同士だというのなら別にわたしに隠すことはないぞ。もちろん、きみたちが将来、その……、け、結婚の約束をしているというなら、それでも構わんし。別に言いふらしたりはしない」

「そんな関係じゃありません。拓ちゃんはあたしのいとこなんです」

「いとこ? いとこは結婚もできるんだぞ」

どーしてみんな同じことを言うんだろう。あたしはためいきをついた。

「拓ちゃんのお父さんはあたしの父の弟なんです。拓ちゃんとは子供のころから仲良くしてました。でも両親が離婚して、父が出て行ってしまって、あたしも苗字が『鳴海』から『美星』に変わりました。経済的にも苦しくなって、あたしはしばらく母方の親戚に預けられていたんです。高校入学とともにこっちに越してきて、拓ちゃんの家とは近所になって。それで拓ちゃんの両親はあたしを助けてくれるようになって、母が仕事で遅くなるときには拓ちゃんの家に泊めてもらうこともあって、それで――」

「わかった、もういい! すまなかった」

岡野会長があたしの言葉をさえぎった。本心から悪かったと思っている表情だ。話はぜんぶほんとのことだから騙したことにはならないけど、会長を悲しい気持ちにさせてしまったことには、こちらも申し訳ないと思った。

文化部の部室棟へと向かうあいだ、岡野会長は黙ったままだった。気まずいなと思っていると、部室棟の入り口の扉を開けながら、岡野会長が口を開いた。

「美星さん、さっきは本当に悪かった」

「気にしてません。それと――、拓ちゃんはいま付き合ってる子はいませんよ」

「ななな、なんでわたしにそんなことを言うのだッ」

会長は目に見えて真っ赤になった。やっぱり拓ちゃんのことが好きなんだ。

「ふふふ、別に」

会長はうつむいてしまった。なんだかカワイイ。

もしも岡野会長が拓ちゃんの彼女になるなら、あたしとしては異存はない。あたしなんかじゃ釣り合わないし、ふさわしくない。拓ちゃんだってあたしのことは妹のようにしか思ってない。血のつながりがなくたって、いとこだし。

――いとこ? いとこは結婚もできるんだぞ。

そりゃそうだけど、あたしみたいな女が拓ちゃんの彼女になっちゃいけない。

そんなの自分で自分が許せない。

「文化部でコンピューターに強そうなところというと、写真部、文芸部、それにコンピューター部だな。どの部も三階に部室がある。ほかには書道部の部室もあるが、あそこは女子ばかりだし関係は薄そうだ。部員の誰かだと決め付けるのはよくないが、朝の登校時間に部室の窓から撮影したのだとすると、鍵を開けて中に入れる人間のはずだ」

階段を上りながら、会長が元のきっぱりした口調で言った。

「まずは写真部をあたってみよう」

[Back][Next]

[第3話 校内美少女ランキング]

[援交ダイアリー]

Copyright © 2012 Nanamiyuu