第3話 校内美少女ランキング (09)
会長は吉田さんのことを疑っているのだろう。証拠を隠されるのではないかと焦っているのだ。
会長の気持ちはわかるけど、あたしの印象はちょっと違った。
吉田さんは痩せていて背が高く、どちらかと言えば美形で、繊細なタイプだ。これほど暗い表情をしていなければ、女子にも好印象を持たれるんじゃないかと思えた。
たぶん、いじめを受けたことがあるんだ。と、あたしは直感した。
女子生徒に向ける憎悪のこもった視線、自分の領域を侵されまいとするかたくなな態度。この人の過去には何か気の毒なトラウマ体験があるのだろう。
あたしは一歩踏み出して吉田さんの腕を指先でちょんちょんと叩いた。あたしの方に顔を向けた吉田さんを上目遣いに見ながら言った。
「あたしたち、校内で盗撮された写真を、学校裏サイトに勝手にアップされて困ってるんです。コンピューター部の方なら、パソコンやネットに詳しいんじゃないかと思って来ました。あたしたち、女子だし、そういう方面はぜんぜんわからなくて。お力をお借りできないでしょうか。助けてほしいんです」
吉田さんは目を見開いた。てのひらの汗を拭うように、何度も手をズボンにこすりつける。息ができなくなったかのように口元を震わせると、黙って戸を開けた。
あたしは軽く頭をさげて、岡野会長といっしょに部室に入った。
部室には吉田さんのほかに三人の男子がいた。みな吉田さんと同じくメガネをかけている。上履きの色からすると全員三年生だ。美形とは言えないけど、特別ブサイクというわけでもない。なのに、いかにもキモオタな雰囲気というか、負のオーラを発している。
それにこの部室はほかの部屋とは違う臭いがした。
デスクトップのパソコンが二台と小型のインクジェットプリンターが机の上に置かれていた。本棚にはアニメ雑誌やライトノベルに、アニメキャラらしい女の子のフィギュアが並べられている。壁にはアニメのポスターが所狭しと貼られていた。
ポスターに混じってゲームの点数表らしき紙が貼ってあり、四人の名前が書かれていた。それによると、吉田さん以外の部員は春日、蔵前、上野という名前らしい。モテナイ人同士、仲がいいんだろう。
部屋の隅には丸めた模造紙が何枚も置かれていた。さっきガサゴソと片付けていたのはこれだな、と思った。どんな内容かは知らないけど、文化祭の展示物の準備をしていたんだろう。
「あの、あたし、一年の美星っていいます。それで、校内美少女ランキングっていう裏サイトがあるんですけど、ご存知ですか?」
「いや」
吉田さんはぶっきらぼうに答えた。
「この部室棟で撮られた写真がアップされてるんですけど、何か心当たりはないでしょうか。カメラを持ち歩いている人を見たとか」
「ないね」
「あたしたち、管理人の生徒を見つけて盗撮とかやめてほしいってお願いしたいんです。でも、誰が管理人なのかわからなくて。なにかいい方法はないでしょうか」
「ぼくたちを疑ってるのか? コンピ部だから? パソコンに詳しいヤツがやったと思ってるんだろうけど、裏サイトなんて適当な掲示板を借りれば誰でも作れるだろ」
と、吉田さんは怒りだした。
「いえ、そんなんじゃ――」
どうもコミュニケーションを拒絶されている。どうしたものだろう。
そんなふうにあたしが吉田さんと話しているあいだ、岡野会長が窓際に歩いて行き、ほかの部室でやったように外をのぞいた。といっても、それで何か新しいことがわかるわけでもない。
吉田さん以外の部員は、突然押し入ってきた女子生徒を恐れるように、何も言わず遠巻きに見ているだけだ。
「おい、生徒会! その紙に触るんじゃない!」
岡野会長が丸めた模造紙を持ち上げたとたん、吉田さんが怒鳴った。
その声に驚いたのか、会長が模造紙を落とした。紙がわずかに広がって、内容の一部が見えた。それを見てハッとした。
特大フォントの『美少女ランキング』という文字が見えたんだ。
会長もその文字に気づいたのだろう。すばやくしゃがみこんで拾おうとする。
「これは何!?」
「やめろ! 見るな!」
あたしは横から手を伸ばそうとする吉田さんを体でブロックした。
悲鳴のような声をあげる吉田さんを無視して岡野会長は模造紙を広げた。
[援交ダイアリー]
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