「わたしからも付け加させてもらうと、お父さんを悪く言うのはやめてほしいわ」
「そうね、それから、もなかちゃんたちをクビにするなら、うちで雇ってもいいわね。なんならもなかちゃんを養子にしてもいいわ。それなら夏目のおばさんも文句ないんじゃないかしら」
ここには味方をしてくれる人が誰もいないと悟って、夏目おじさんは唇をふるわせた。床の上で抱き合っている栄寿さんともなかさんに一瞥をくれると、
「勝手にしろ。もう俺は知らん」
そう言い残して、脇目もふらず部屋を出て行ってしまった。
おじさんが持ってきたラッピング袋だけがあとに残された。わたしはそれを持ち上げると、包みをほどいた。中に入っていたのは、薄いピンク色のウサギのぬいぐるみだった。ピンクのキャミソールとぱんつを身に付けていた。前から欲しかった着せ替えぬいぐるみだ。
ママを見た。おじさんがママに訊いて選んでくれたんだろう。ママは小さくうなずいた。
わたしはぬいぐるみを抱いて、夏目おじさんを追いかけた。玄関を出ると、車に乗ろうとしていたおじさんを呼び止めた。
「おじさん、きょうは来てくれてありがとう。このプレゼントもすごくうれしいわ」
おじさんは疲れたような表情で振り向いた。
「たしかに莉子はあの人の娘だ。以前は莉子が自分の娘だったらよかったのに、と思っていたんだがな」
「もしも、わたしの父親がおじさんだったとしても、ママはおじさんとは結婚しなかったと思うな」
おじさんは低く笑った。
「そうだな。たぶん、そうだろう。『考え方が違うだけ。それはお互い尊重したいし、してほしい』。お前のママはそう言って俺をフッたんだ。まあ、俺もいまは妻子ある身だ。むかしの話さ」
「さっきは言いすぎたわ。ごめんなさい。おじさんはあのメイドさんたちにひどいことをしたと思うけど、ふたりとも自分で決めたことだものね。あと、ママも栄寿さんも、おじさんのことを嫌いにはなってないわよ」
「わかってる」
「もうひとつ、おじさんに謝りたいことがあるのよ。わたしはいままで一度も、おじさんのことを『お父さん』と呼んだことはなかった」
おじさんは肩をすくめた。
「別に構わんさ。実際、俺は莉子の伯父さんなんだからな」
「そうだけど、わたしはそのことを知らなかった。生物学上の父親は夏目おじさんだと思っていたんだもの。きっと、わたしって嫌な子だったわね。だから、そのことを謝りたいの。ごめんなさい、伯父さん。それから、いままでわたしのお父さんでいてくれて、ありがとう」
おじさんは何か言いたげに口元をもぞもぞさせた。でも、結局何も言わず、ぎこちなく微笑むと、大きな手でわたしの頭をなでた。
おじさんは車のドアを開けて乗り込もうとした。そこで思い出したように振り向くと、
「ハッピーバースデー、莉子。元気でな」
「ありがとう。またね」
おじさんが行ってしまうと、みんなのところに戻った。
バースデーケーキのろうそくを吹き消して、ケーキを切りわけた。そのあとで、みんなからプレゼントを渡された。
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