第16話 世はなべて事もなし (07)
カウンターに戻ると、話の内容が気になる様子で岩倉くんが顔をあげた。でも、興味がないフリで本に目を落とす。しょうのない人だ。
「このままでいいの?」
あたしの言葉に岩倉くんはムスッとした顔でにらんだ。
「何がだよ」
「どうするかは御影くんが決めることだよ。正解なんてないしね。あたしはあんたのこと、すごい人だと思ってるし、魅力的な男の子だと思ってる。だけど、恋愛についてはヘタレすぎて見てられない。恋は早いもの勝ち。行動しなけりゃ不戦敗だよ、きみ」
岩倉くんは本を閉じて、
「岡野先輩は鳴海先輩のことが好きなんだろ? 見てりゃわかる」
「うん。99パーセント、御影くんはフラれる。だからこのまま自分の心に秘めて青春の思い出にするっていうのも悪くはない。男の人はそういう考え方する人も多いよね。女はさ、自分の気持ちを吹っ切るために、ダメだとわかっててもあえて告白して玉砕するってこともあるからさ。どちらを取っても後悔するんだったら、早く立ち直れる方を選んだらいいと思う。それがどちらなのかは御影くんにしかわからない。もしも告白してフラれて辛い思いをしたら、そのときはあたしがなぐさめてあげるよ」
あたしがにっこりすると岩倉くんがほっぺたを赤くした。それであわてて、
「友達として、ってことだよ」
と付け加えた。
岩倉くんは肩の力が抜けた様子でちいさく笑った。
「美星って、意外といいヤツだな」
どーゆー意味だよ、それ。
とまあ、こんな感じで岩倉くんとも仲のいい友達になれて、平和な学校生活を送っているあたしなのだった。
前に岩倉くんはあたしのこと「教室では猫かぶってる」って言ってたけど、学校でのあたしのイメージもすこしずつ変わってきてる。三ツ沢さんは入学当時のあたしのことを、謎めいていて悲しそうに見えた、と言ってた。ほとんどの人にとっては引っ込み思案でおとなしそうな子に見えていただろう。それが恵梨香先輩や美奈子ちゃん、岩倉くんたちと友達になれて変わり始めた。いまは学校も悪くないと心から思える。
それに――。
学校でエッチなことをするのは背徳感にあふれていてすごく刺激的。
藤堂先生との出会いがまたひとつあたしを変えた。
翌日の朝は早起きして登校した。図書室で藤堂先生と待ち合わせ。普段は先生とイチャイチャするのは図書室前の階段の踊り場だけど、せっかく先生とエッチなことできる関係なんだから、校内のいろんな場所でしてみたいじゃん。図書室にはちょうど手頃なソファがある。カウンターの正面にあるので、当番のときに目を付けていたんだよね。
あたしたちはソファに並んで座り、キスを楽しんだ。
先生はキスがうまい。舌を絡ませあってると、それだけで頭がポーッとなってくる。
テスト前で部活の朝練もないから、いつもならかすかに聞こえる運動部の掛け声もきょうはしない。図書室の空気は時間が止まってるみたいに静まり返っていた。キスの音だけが書架のあいだにこだまする。
先生が肩を抱いて、もう片方の手をミニスカートの中に入れると、太ももを撫でてきた。いやらしい手つきでじらしながら奥の方へと近づいてくる。
薄目を開けてカウンターの方を見た。岩倉くんのことが頭に浮かんだ。きょうのお昼もあそこに並んで図書委員会の当番をこなすんだ。あたしが作ってきたお弁当を二人で食べながら。岩倉くんはあたしが担任の先生とこんなことしてるなんて、夢にも思ってない。カウンターから岩倉くんが見てるんだと想像すると興奮が高まった。もしも岩倉くんがあたしを買いたいと言ってきたらどうしようかな。ウフフ。
濃厚なキスで何度かイカされ、気持ちが高まったところで、先生がロープを取り出した。
「ここで縛るの?」
「イヤか?」
あたしはちょっと不安を覚えた。
先生は女の子を縛るのが好きなんだ。あたしも先生に縄の味を教えられた。身動きできないように拘束された状態で挿入されるとすごく気持ちいい。先生の手でM女としてもっと調教されてみたい。知らない快感をもっと教えてほしい。
けど、さすがに学校では両手を縛ってもらうくらいがせいぜいだった。校内でセックスするのだってアブナイからまだ二回しかしたことない。縛られて身動きできない状態でセックスしてるところに、もしも誰かが入ってきてしまったら……。身を隠そうとしても動けないんじゃ、逃げようがない。先生だってクビになるか、ヘタすれば逮捕だし。
あたしが答えられずにいると、先生がロープを片付けようとした。
「期末テスト前だし、きょうはここまでにしておくか」
「あ、待って。つづき、したい。縛られて強引に犯されたい。先生のモノにして」
思わず先生にすがりついてしまった。先生は微笑んでキスをしてくれた。
どうやらあたしの扱い方がわかってきたみたいだな。
[援交ダイアリー]
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