「わたしは栄寿さんに襲われたわけじゃないです。合意の上のセックスですよ」
「だからさ、莉子ちゃんみたいなカワイイ子とのセックスは、その……、栄寿さんの病気を悪化させてしまうんじゃないかと思うんだ。この二年間、栄寿さんはずっと耐えてきたんだよ。その努力を無駄にさせたくないじゃん」
「耐えてるだけじゃ何も解決しないじゃないですか。栄寿さんがこの先ずっとお人形としかセックスしないなんて、そんなのおかしいですよ。わたしはわたしなりに栄寿さんを助けたいと思ってるんです。わたしだって、栄寿さんのことが大好きなんですよ」
わたしなら変えられる。
ママの娘であるわたしだけが、父親である栄寿さんを助けられる。
これは運命だ。そう信じてる。
あずきさんはじっとわたしの目を見つめた。それからもう一度、今度はママのように優しく抱きしめた。なんか、いい匂いがする。ママと同じ匂い。愛情や慈しみに匂いがあるなら、きっとこれがそうだ。
「恋……、だと思う……」
抱きしめられたまま、わたしはつぶやいた。
口に出すと、その気持ちがますますはっきりと感じられる。
栄寿さんのことは昔から好きだった。でも、昔の気持ちと、いま感じてる好きって気持ちは違う。
きのう初めてのえっちをしたときの栄寿さんに対する気持ちは、どちらかというと昔の「好き」だった。きのうのわたしは自分のことしか考えてなかった。セックスを体験したいという気持ちだけで、あの手この手で栄寿さんを誘惑したんだ。
でも、いまは違う。栄寿さんのことが好きだ。栄寿さんにも愛されたい。栄寿さんには幸せになってほしい。その幸せの中にわたしもいたい。栄寿さんとふたりで幸せを作りたい。
初めてだからよくわからないけど、きっとこの気持ちは恋なんだ。
「わかった。莉子ちゃんのこと、信じるよ。確かに、莉子ちゃんの言うとおり、いまのままじゃ誰も幸せになれない。だから、あたしにできることがあったら何でも言ってね。応援するから」
あずきさんは背を伸ばして、また笑った。
リビングには栄寿さんが待っていた。ダークグリーンのパジャマっぽいシャツに、同じ色のゆるゆるのズボンをはいている。最初はパジャマだと思ったんだけど、実際にはイタリア製の高級シャツだった。イタリア製のスーツはパジャマみたいな着心地だと、以前パパが言っていたのを思い出す。
「いらっしゃい、莉子ちゃん」
栄寿さんが優しい笑顔で言った。
胸の奥が、
きゅん、
と鳴った。
いや、実際に音が鳴ったように思えたんだ。わたしのお父さんで、初めてセックスした男性、小学生の頃から仲良しのお兄さん。そして……。
初恋の人。
顔が火照るのを感じた。もしかして赤くなってる? なんだかすごくドキドキしてる。
栄寿さんとのセックスを意識しちゃってるのかな。
お父さんだってことを意識しちゃってるのかな。
それとも、恋をするといつもこんなにドキドキするのかな。
「え、栄寿さん……、こ、こんにちは。ま、また、来ちゃいました」
うつむき気味に、なんとかそれだけ言えた。
なんか、うまくしゃべれない。体が自分の体じゃないみたいな感じだ。緊張してる。
どうしよう。
Copyright © 2011 Nanamiyuu