胸がいっぱいでしばらく何も言葉が出てこなかった。それでも――。
「言ったでしょ。あたしは援助交際をしてるんだってば。あたしはきみが思ってるような子じゃないよ。恋をする資格なんてない」
「そういうことしてる子かもしれないとは、最初に会ったときから思っていたよ」
「だったらどうして……」
「この二週間で沙希さんのことはそれなりにわかったつもりだよ。あんたは自分で思っているよりずっといい人だ。いままでのあんたがどうだったかは関係ない。俺は自分の知っている沙希さんを信じる。だから、俺の彼女になってほしい」
力強い言葉だった。いつの間にこんなに強い男の子になってたんだろう。
あたしは快斗くんの言ったことをかみしめた。罪悪感が北風のように胸の奥を吹き抜ける。快斗くんこそ、思ってたのよりずっといい人だ。
あたしは涙をぬぐいながらコクリとうなずいた。
「快斗くんの部屋に行きたい。えへへ、家庭教師させて。してあげたいの」
快斗くんは顔を真っ赤にしてそわそわしだした。意味伝わったみたい。
あたしたちはほとんど口をきかず、でも体を寄せあって歩きながら快斗くんの家に行った。家には誰もいなかった。
「お風呂に入ってもいい? 汗かいちゃったから恥ずかしいもん」
お湯を張りながら快斗くんが先にシャワーを浴び、部屋着に着替えるとあたしと入れ替わりに浴室を出て行った。
あたしはお風呂でていねいに体を洗った。それであたしに染み付いた汚れが落ちるわけじゃないけど。お風呂からあがったあたしは、快斗くんがさっきまで着ていた白のブラウスだけを羽織った。
快斗くんはリビングであたしを待っていた。あたしの姿を見ると、あわてて駆け寄ってきた。リビングにはいつの間にか返ってきていた松田夫人がいたんだ。夫人はあたしを見ると眉をあげた。
「母さん、俺、いまから勉強するから、部屋に入ってこないでよ。お茶とかいらないから。ぜったい邪魔しないで」
と、快斗くんが上ずった声で言った。
ごまかせたと思ってるのかな。階下にいる母親が部屋に入ってくるかも知れないと思いながらセックスするというのは、男の子にとってどんなスリルなのかな。
快斗くんの部屋に行ってふたりきりになった。
なんだか照れくさくて、目を合わせられない。
だけど、先生なんだからしっかりしなくちゃ。
あたしは快斗くんと向かい合って立つと、上目遣いに快斗くんを見上げ、それからもじもじしながら目を伏せると言った。
「キス……してください」
快斗くんはズボンに手のひらをこすりつけて汗をぬぐった。キスのときどうすればいいのかわからない様子だ。あたしの顔を上向かせればいいんだけど、それは思いつかないみたい。膝を曲げて下からキスしようとしてきたので、あたしは上を向いてあげた。
「あたしみたいな子だって、キスは好きな人としかしないんだからね」
そう言って笑顔のまま目を閉じた。
部屋を温めているエアコンのかすかな送風音だけが聞こえる。
緊張で固くなった唇がためらいがちに触れてきた。
目を開けて、快斗くんに微笑みかける。羽織っていたブラウスを床に落とし、あたしは全裸になった。快斗くんが唾を飲み込むゴクリという音が聞こえた。
「触ってみて。そっと、やさしくね」
催眠術にかかったように、無言で快斗くんがあたしの肩に触れた。
先をうながすと、快斗くんの手があたしの乳房をそっと揉むように触ってきた。快斗くんの手はすこし震えていた。
ふたたび唇を突き出す。快斗くんが唇を重ねてくる。興奮した鼻息がかかる。手の動きが大胆になってくる。
「快斗くんも服、脱いで」
快斗くんが着ているものをぜんぶ脱ぎ捨ててしまうと、あたしはベッドに腰を下ろした。快斗くんもそれにならう。
こんどは快斗くんの方からキスしてきた。
口をすこしだけ開いて舌を誘い込む。
石鹸の匂いがする。
唇を離して、見つめ合った。
快斗くんの目は普段と違って野獣のようにぎらぎらしていた。いますぐ襲いかかりたいという衝動にかられているんだ。股間にそそり立つアレはもうカウパーを垂らしてる。
「ホントにあたしでいいんだよね?」
「沙希さんがいいんだ」
「うれしい。大好きだよ」
あたしはキスされ、ベッドに押し倒された。
[援交ダイアリー]
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