さわやかに晴れた朝。花を咲かせた桜の木の下に、毛布を敷いた。ベッドというわけにはいかないけれど、下は芝生なので寝そべっても固さはないだろう。
もなかさんがお弁当の包みをすみっこに置いた。お昼までにはまだまだ時間がある。
「ガレージの奥を探せば、レジャーシートが見つかったんじゃないかい?」
事情を知らないお父さんが言った。
わたしは靴を脱いで毛布の上に座ると、もなかさんとあずきさんに目配せした。
「ねえ、お父さん。もなかさんとセックスしてどうだった?」
「え? どうって、その……」
お父さんが言いよどんだ。もなかさんの方をチラッと見て、顔を伏せた。顔を伏せたけど、座っているわたしと目が合った。お父さんはため息まじりに靴を脱いで、わたしの横に腰を下ろした。メイドさんたちもお父さんのうしろに座った。
「もなかさんがセックスしようと言ったとき、最初は嫌がったんでしょ? なのに、どうしてセックスしたの?」
お父さんは下を見たまま、
「ぼくは自分を変えたかった。どうすればこれまでの自分から抜け出せるのかはわからない。でも、もう誰も、きみやユキちゃんのように傷つけたくない。もちろん栗原さんのこともだ。ぼくはもう誰とも関係を持つまいと思った。ラブドールの子たちだけを相手にしていればいいんだと思った。だけど、栗原さんは、それではダメだと言った。それにセックスは自分も望んでいることだと言った。だから、ぼくは兄さんがお膳立てしたとおりに、栗原さんを抱いた。それが正しいことかどうかわからない。ぼくは間違っていたんだろうか」
「もなかさんとあずきさんは恋人同士なのよ。ふたりはずっと前からお互いに想い合っていたの」
お父さんは怯えた表情でため息をついた。
「知っていたら、ぼくは栗原さんとセックスしたりしなかった。やっぱり、間違っていたんだ。兄さんに言って、ふたりを解放してもらう。ぼくにできる罪滅ぼしといえば、それくらいのことだ」
「お父さんはふたりが好きじゃないの?」
「好きだよ、もちろん。決まってるじゃないか。それにすごく感謝している。だから、申し訳ないと思うだけじゃダメだ。ぼくはふたりに報いなければいけないと思う」
「もう誰ともセックスしないつもり? ラブドールを使ったオナニーだけして、それで満足なの?」
「そうすれば、これ以上ふたりを傷つけずに済むんだ」
責められていると思ったんだろう。お父さんは悲痛な声で言った。
わたしはお父さんをそっと抱きしめて、ほっぺたをくっつけた。
「お父さん……、お父さんって、ほんと、ヘタレだわ」
顔を離してもう一度、お父さんを見上げた。
「お父さんは間違ってる。もなかさんを泣かせた責任を取らなくちゃいけないわ」
「わかっている。でも、どうすれば償うことができるんだろう……」
わたしは笑顔を作って、
「これからここでわたしたち三人とセックスするのよ」
お父さんが固まった。わたしが何を言ったのか理解できない様子だ。冗談を言ってるんじゃないってことをわかってくれるまで、黙ってじっとお父さんを見つめて待った。
ずっと見つめていると、お父さんの顔が赤くなってきた。ズボンの股間が膨らんだ。
「な、なんだよ、それ。わけがわからないよ」
「もなかさんとあずきさんは、お父さんのことが大好きだから、助けたいと思っているのよ。その気持ちを受け止めてあげてほしいの。ちゃんと応えてあげてほしいのよ。わたしだってそうだよ」
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