新婚不倫 (17)

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あたしはレオくんの首に抱きついてキスをすると、

「ねえ、レオくん。また会ってくれる?」

「ぼくとご主人のどちらを選ぶのかと訊いたら、どうしますか?」

レオくんが真面目な顔で言った。

思いがけない質問に、あたしは口ごもった。レオくんが好きだ。これからもレオくんとの交際を楽しみたい。だけど、それは夫を捨ててレオくんとの人生を歩んで行こうというのではない。レオくんも割り切っているんだと思ってた。違うの……?

「奈緒美さん」

名前で呼ばれた。ドキッとした。レオくんは真剣な表情を崩さない。

これってまるで……。

「好きです」

やっぱり告白だあ!

「あ、あの……」

すごくうれしいけど。

なんて答えたらいいの?

あたしは人妻だよ。

レオくんの気持ちに応えられるわけない。

「映画館で出会ったのは偶然じゃなかったんです。ずっと前から、奈緒美さんのことを見てました」

「どういうこと?」

「結婚されてることは最初から知ってました。ご主人と仲良く手をつないで歩いているところも見てました。同じ学部の女子の先輩にあなたの友人がいることを知って、一芝居打ってもらったんです。奈緒美さんと知り合いたくて」

「じゃあ、理紗子は急用で映画に来れなくなったんじゃなくて……」

「ぼくが頼んだんです。図書館で出会ったのもスーパーで出会ったのも偶然じゃありません。ストーカーだと軽蔑するでしょうね」

「そんなことないけど……」

「ぼくは奈緒美さんと友だちになれるだけでよかった。こんなことになるなんて思ってなかった。でも、もう気持ちを抑えられない。好きです」

あたしはせつない胸のときめきを感じずにはいられなかった。

だけど……。

「あたしは結婚してるのよ。レオくんのことは好きだけど、愛してるのは則夫さんだけだもの。だから、レオくんだけのあたしにはなれない」

レオくんの表情が曇った。

「くやしいな。ほんのちょっと早く出会えていたら……。ご主人より先に奈緒美さんに会ってたら、ぼくのことを愛してくれましたか?」

そんなことわかんないよ。

もしレオくんと先に出会っていて、レオくんと結婚していたら……。

胸の奥がキュンとなった。

きっと素敵だっただろう。レオくんとあたしは歳も近いし趣味も合う。一緒にいて楽しいし、セックスの相性だってぴったりだ。

「レオくんとのこと、このまま終わりにしたくない。ねえ、いまのままの関係じゃダメなのかな。ときどきデートしたり、セックスしたりして。でも互いの生活は大切にするの。こんなの虫が良すぎるかな」

レオくんがあたしをぎゅっと抱きしめた。

「残酷なひとだ。でも、奈緒美さんの言うとおりですね。ぼくだって奈緒美さんの家庭を壊したくない」

「ごめん、レオくん」

「いいんです。でも、諦めたわけじゃありませんよ」

レオくんが再び笑顔を浮かべた。それを見てあたしも安心した。

「あたしは則夫さんのことを愛してる。でも、レオくんのことも好き。だからレオくんとの関係を続けていきたいの」

「ぼくもです」

「あたしとレオくんの、ふたりだけの秘密だよ」

そう言って、キスをした。

いつか悲劇に引き裂かれるとしても、それまでは大好きという気持ちを抱きしめていよう。

いつも夫と寄り添って眠っているベッドの中で、いま別の男性に抱かれている。夫の匂いのするお布団にくるまって。

もう止まらない。

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