息を切らしながら、問題の写真を探した。写真はすぐに見つかった。部屋のうしろのすみっこにテープで貼り付けてあった。封筒に入っていたのと同じく、A4の紙に印刷されていた。
その紙をひっぺがすと、ほかにもないかと部屋の中をくまなく調べた。二回チェックして写真は一枚だけだとわかると、マラソンを終えたあとのようにその場にへたりこんだ。
間一髪だった。一分遅れていたらほかの子に見つけられていただろう。メール転送のタイミングによっては、あのメールをまだ受信できてなかったかもしれない。そう思うと犯人に対する怒りがわきあがってきた。
あたしはケータイを取り出すと、犯人にメールした。
『どうしてこんなことをするんですか? 要求を言ってください』
深いため息をついた。犯人の目的があたしの体なら応じてもいいと思い始めていた。あたしの正体をみんなに知られるのはいやだ。セックスすることで解決できるなら簡単なことだ。
ちょうど理科室だ。ここでならマッチを手に入れられる。写真を燃やすためマッチ箱を一個拝借して、手近なトイレに入った。
個室に入って、理科室で見つけた写真を広げた。まだちゃんと見てなかったけど、この紙にもサインペンで何か書いてあったからだ。
写真を見たあたしは目を見張った。
紙に書いてある文章自体はどうということのない内容だった。
『この子は一年F組 美星沙希さん 援助交際をしています 彼女はこれまでに何人の男とセックスしたのでしょうか?』
問題は写真だ。なんだこれは? どこかのビーチの波打ち際に、全裸で膝立ちになっているあたし。目線はカメラから微妙にはずれているけど、ほぼ正面を向いている。
こんな写真を撮られたことはない。こんなことしたことはない。それは断言できる。どうしてこんな写真があるんだ?
封筒に入っていた写真もそうだ。もしヘマをして隠し撮りされたことがあったとしても、こんなに何度も撮られたはずはない。
おかしい。
知らないうちに別々の男に何度も隠し撮りされてたというのか。
しかも、それぞれの男がみんな写真をネットにアップしてたというのか。
そして、写真を何枚も見つけた晴嵐の生徒の誰かが、あたしに送ってきたというのか。
そんな偶然があるもんか。
じゃあ、この写真はなんだ?
あたしは背筋が寒くなるのを感じた。体が震えだした。歯がカチカチ鳴った。
怖くてたまらない。
(解離性同一性障害――)
あたしは、あたしの知らないところで、あたしの知らない男と、何度も援助交際をしているのか?
(そんなバカな……)
あたしは精神科に通院していたことがある。
オバケが見えていたことがある。
自分から強姦されにいくという自傷行為を何度も繰り返していたことがある。
だけど……。
どんなときでも、あたしはあたしでいたはずだ。
たしかに、苦しくてたまらないとき、心が体を抜けだして自分自身を外から見ているような気分になることはあった。いまでもそういうことがある。
でも、どんな苦しみだって自分で引き受けてきたはずだ。
そう思ったけど、急に確信が持てなくなってきた。
だって写真がある。
この写真は単にあたしが援助交際をしている証拠というだけじゃない。
あたし自身も知らないうちに援助交際をしているという証拠でもあるんだ。
――多重人格。
あたしは全身にびっしょりと冷や汗をかいていた。
確かめなきゃならない。そのためなら犯人に体を陵辱されてもかまわない。
突然、メールの着信音がして、思わず悲鳴をあげた。
『要求を伝えます。あなたが援助交際でおおぜいの男に体を売っていることを、恋人の鳴海君に打ち明けてください。明日の正午までの猶予を差し上げます。自分で打ち明けることができないなら、私が教えることにします。ただし、その時には学校当局と全校生徒にも知らせますからね』
メールの文面の意味が、最初はよく飲み込めなかった。ヤラせろという内容ではない。だけど、これは……。
犯人は女子生徒で、あたしと拓ちゃんを別れさせようとしてるのか……?
もしそうなら犯人に強姦されずに済む。でも、援助交際をバラされる危険はかえって高くなった。いや、要求を飲んでも拒んでも、秘密を知られてしまう。
[援交ダイアリー]
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