いけない進路相談 (21)

真琴が駐車場に行くと、矢萩が自分の車のドアにもたれて待っていた。矢萩はこげ茶色のジャケットにオリーブ色のスラックス姿で、腕を組んでいる。険しい表情だった。

矢萩の車は、古めかしくて角ばった2ドアクーペだった。形は地味だが、色が赤とダークグレーのツートンなのが駐車場のなかでひときわ異彩を放っていた。左ハンドルなので外車なのだろう。最近の国産車ならだいたい見分けられる真琴だったが、フロントグリル中央の三叉のマークは見たことがなかった。

真琴が近づくと、矢萩は仏頂面で、

「俺がいったん学校の外に出てから、大友さんを拾ったほうがいいんじゃないかな?」

と言った。

「別に構いませんよ、誰かに見られたって」

真琴がにこりともせずに答えると、矢萩はむすっとして真琴のためにドアを開けた。真琴が助手席に座ると、矢萩はドアを閉め、反対側にまわって自分も乗り込んだ。

外から見たときはパッとしない印象の車だったが、明るい茶色のレザーとウッドを多用した内装は随分と豪華だった。シフトレバーのノブとハンドルも木製で、なんともキザな感じだ。フロントパネルの中央にはめ込まれた小さな金時計だけはかわいらしくて、真琴の目を引いた。

たぶん、これまでにも何人もの女性がこのシートに座り、この雰囲気に騙されてきたのだろう。

矢萩は車を発進させ、無言のまま校外に出た。幹線道路にはいると車は急に加速し、真琴の体が革張りのシートに押し付けられた。

「さて、大友さん。どこへ行きたい?」

学校を出て十分ほどしたところで、痺れを切らした矢萩が尋ねた。

相沢操のことで話がある、ついては放課後二人だけで話したい。昼休みにそう言って、真琴は矢萩を連れ出したのだ。昨日の早朝に矢萩と操が図書室でしていたことについてだと告げると、矢萩は何も言わずに承諾した。そのことが矢萩の有罪を立証していると、真琴は思った。

「ホテルに行きたい」

と真琴は言った。

「なんだって?」

「ホテルに連れてってください。先生が操にしたのと同じことを、あたしにもして欲しいんです」

真琴は緊張で全身から汗が噴き出すのを感じた。心臓の音が聞こえるほどだ。自分から男を誘っているからだけではない。自分はこれからこの男を罠にはめようとしている。そう考えると、自分のしていることが恐ろしく感じられたのだ。

「大友さんは操……、相沢とは仲良しだと思っていたんだが」

「操には黙ってますよ。大丈夫です、遊びだと割り切ってますから。後腐れなく、女子高生の体を楽しめるんだと思ってください」

「大友さんのそういうセリフは、いささかショッキングだね」

「いいじゃないですか。それとも生徒会の副会長も務める優等生は、セックスに興味あるはずないとでも?」

「そうは言わん。高校生なんだから女子でもセックスに興味津々な子もたくさんいるだろうさ。でも、大友さんはもっと思慮深い人だと思っていたよ。ゲーム感覚で誰でもいいからセックスしたいと思って男を誘うような、そんな人だとは思ってなかったからね」

「誰でもいいなんて思ってません。昨日、言ったじゃないですか。先生のことが好きだって」

「それが本心じゃないってことはわかってるよ。もう少しゆっくり話し合ったほうがいいと思うんだけどな」

「言葉なんていりません。それより気持ちいいことしましょうよ。嫌だというなら、操とのことばらします」

そう言うと、矢萩は観念したようだった。大きくため息をつくと、そのまま黙ってしまった。

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