いけない進路相談 (14)

教室に戻ると、自分の席について椅子に腰をおろした。

真琴は、矢萩が自分に食いついてきたと思った。

わかったことは二つある。矢萩は日曜のデートの相手を隠していること。それと女子高生に興味があることだ。

(もし女子高生に興味がないなら、あのとき笑い飛ばしていたはずだ)

矢萩にとって自分はどう見えていたのだろうか、と思う。生徒会副会長で、成績もトップクラスの優等生で、男子の人気も高い。真琴は自分が美人であることは認めていた。そのことを鼻にかけることはなかったし、むしろ貧乳をコンプレックスに思っていたけれど、第三者の視点で見ても自分が容姿に恵まれているのは確かだ。

(あんなふうに告白されたのだから、ロリコン男の欲望に火がついたはずだ。あえて好きだとはっきり言わなかったことで、いまごろあたしのことが気になってしかたがないに違いない)

真琴はケータイを取り出した。アドレス帳を開いて、登録されている矢萩のメールアドレスを表示させた。生徒会役員である真琴は、何人かの教師の連絡先を自分のケータイに登録してあった。教師の個人用のケータイではなく、公的な連絡先だったが。

何かメールしてみようか、と考えていると、ふと視線を感じた。顔をあげると、操がじっと真琴の方を見ている。その顔に浮かぶのは不安か苛立ちか。真琴は笑顔でウインクした。操は唇を噛むと、つかつかと近づいてきて真琴の前に立った。

「先生となに話してたの?」

「メアド教えてもらった」

そう言って、真琴はケータイの画面を操に見せた。操が青ざめるのがわかった。

「そうなんだ」

操がそう言ったきり黙りこんでしまったので、真琴はバッグを持って立ち上がると、明るい声で言った。

「ねえ、帰りにドーナツでも食べてかない? いろいろ相談したいこととかあるし。好きなもの、おごるよ」

学校を出て商店街に着くまで、二人はほとんど口を聞かなかった。

もしかしたら自分は親友を傷つけてしまうのかも知れない。そう思うと、真琴も気が重かった。

店に着くと、操はホイップクリームをつめたフレンチドーナツとチョコラテを、真琴はパイを二切れとコーヒーを頼んだ。真琴は甘いものは好きだったが、なるべく節制するようにしていた。どうしてウエストではなく胸に肉がつかないのかと悩んでいたのだ。一方、操はぽっちゃり系の割りには食べても太らず、出るところは出ているので、それがいかにも不公平に感じられた。

操は黙ったままいきおいよくドーナツにかぶりつき、はみだしたクリームが口のまわりにべっとりと付いてしまった。操はあわてて指で拭うと、指先についたクリームを舐めた。そうしているうちにドーナツからクリームが垂れそうになり、操はそちらも急いで舐め取った。

それを真琴に見られているのに気づいた操は、いらついた表情で目をそらした。

真琴はコーヒーをすすりながらケータイの画面に視線を落とすと、どう切り出そうかと考えた。その様子を操が誤解したらしい。ふてくされたような口調で言った。

「メールアドレスを交換したのがそんなにうれしいわけ?」

「そりゃあ、そうだよ。好きな人のメアドだもん。あ、でも、操は前から知ってるんだっけ、先生のアドレス」

「知らない。あたし、ケータイ持ってないもん」

そうだったな、と真琴は思った。操は真琴や聡子がケータイを使っているのを見て、自分も欲しがっていたが、きっと家の経済事情を考えて母親に言い出せないのだろう。

「好きな人といつでも話せるって、ステキじゃない? ねえ、ちょっと先生にメールしてみようか」

「よしなよ。用もないのにメールしたら迷惑でしょ」

「用もないのにメールするなんて普通じゃん。でも、まあ、まだ恋人同士になったわけじゃないしな。いまはやめとく」

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