なにも答えられない。なにか言わなきゃと思うんだけど、口を開くと胸の痛みがこみ上げてきて、嗚咽が漏れるだけだ。また涙が溢れてきた。あたしは両手で口元を押さえて、しゃくりあげた。
答えたらきっとあたしは嫌われる。不貞を働いた淫乱な女として捨てられる。
だけど。
悪いのは全部あたしだ。
あたしが則夫さんを裏切ったんだ。
責任をとらなきゃいけない。
これ以上、裏切っちゃいけない。
これ以上、ウソをついちゃいけない。
これ以上、傷つけたくない。
こうなってしまった以上、もう何をどう取り繕ったところで意味なんてないんだから。
「あたしは……」
声が震える。あたしは必死に言葉を絞り出した。
「あたしは則夫さんのことが好きです。許してもらえないかもしれないけど、則夫さんが好き。則夫さんに抱かれて、初めてセックスが素敵なものだって思えたの。則夫さんがあたしを女にしてくれたの。ただ、あたしは……、もっといろんなセックスをしたかった。ふたりでもっと気持ちよくなりたかった……。でも、そんなこと言ったら則夫さんに軽蔑されると思った。幻滅させちゃうと思った。だから、レオくんと……。ごめんなさい。あたしがバカだった」
しばらくの間、則夫さんは黙ってあたしを見つめていた。あたしは判決を待つ被告人のように、息を止めたまま則夫さんの言葉を待った。
許してもらえるなんて期待はしていない。ただ、則夫さんに謝りたかった。
不意に則夫さんがかすかな笑顔を浮かべた。それからベッドの上に脚を伸ばして座り直すと、
「フェラチオをしてくれ。レオにしたように」
希望が残っているのかもしれない。そんな期待に胸がドキンとなった。まだ拒絶されていないんだ。許してくれるなら何だってする。
あたしは則夫さんの股間に顔をうずめた。さっき暴発させちゃった則夫さんのモノは精液で濡れていた。それを咥えて、精液を舐めとるように舌を動かす。
あたしはレオくんが教えてくれたように両手も使いながら、必死にしゃぶった。則夫さんのモノがどんどん硬くなっていく。
則夫さんがあたしの頭に手を添えて、やさしく撫でてくれた。
「奈緒美、レオが言ったとおり、俺はゲイだ。高校生のときに後輩の男子を押し倒して以来、たくさんの男と付き合ってきた。そのことに悩んでいなかったかといえばウソになるが、それでもこれが自分なのだと思っていた」
則夫さんの口調は落ち着いていた。あたしは則夫さんを悦ばせてあげたくて、奥まで咥えた。則夫さんを満足させてあげられたなら、自分は許されるんじゃないか。そんなかすかな期待にすがりたかった。
「奈緒美と出会ったとき、女に恋をしてしまったことにショックを受けた。たぶん異性愛者の男が同性を好きになってしまったときには、こんな気持ちになるのだろう。俺は女のことはよくわからない。だが、自分がゲイだったと知られてはならないことはわかっていた。だから俺は奈緒美に対して臆病になっていたのかもしれない」
知らなかった。則夫さんの気持ち。
則夫さんはさっき脱いだ服の中からネクタイを取ると、レオくんに渡した。それからあたしの両手を取って、
「フェラを続けろ」
と命じた。
[新婚不倫]
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