「助けてくれて、ありがとうございました」
「早く気づいてあげられなくてゴメン。沙希さんですか?」
「はい、沙希です。村岡さんですね?」
村岡さんは戸惑ったような顔でうなずいた。
美星沙希というのがあたしの本名だ。苗字は教えてないけど、下の名前は偽名ではなく本名を教えてる。なぜなら、セックスのとき名前を呼んでほしいから。
村岡さんの名前はたぶん偽名だろう。それは別に構わない。
「会ってくださってうれしいです。それと、約束の時間に遅れてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
あたしは深々と頭をさげた。
こうした丁寧な応対は演出も含んでいる。援交してる女の子なんて股と同じくらい頭もユルいと思っている男の人は多い。
援助交際をうまくやるには、こちらに価値があることを認めさせ、主導権をキープしつづけることだ。
「想像していたより、ずっと美人ですね。高校生……なんですよね?」
「高校一年生です。村岡さんも、思ってたよりずっとカッコよくてステキな人ですね。優しそうな方で安心しました」
あたしは笑顔で答えた。こっちが十八歳未満なのは村岡さんも元から承知している。
でも、村岡さんは予想以上にショックを受けたみたい。ちょっとまずいな。
「場所を変えましょうよ。駅の改札で立ち話というのもアレですし」
あたしたちは駅を出て海辺のショッピングモールの中にある喫茶店に入った。
お互いに打ち解けるよう、まずは自己紹介っぽい話から始めた。もちろん、身元がわかるような内容は話さない。村岡さんは仕事の話をし、あたしは学校の話をした。主に勉強のこととかだ。まじめな高校生という印象を持ってもらえるようにね。実際、あたしはまじめな性格だし。
オーダーしたパフェをウエイターさんが運んできてくれると、クリームをスプーンですくいながら、本題に入ることにした。
「それで、このあとのことなんですけど……。あ、その前にお金の話をしておいた方がいいですよね」
お金の支払いはトラブルの元だから、最初にきっちり話をつけておく必要がある。
援助交際をする女子高生の価値は、やっぱり未成年の素人だってことだと思う。あたしはまだ援交の経験はすくないし、いまだって内心すごく緊張してる。けれど、自分の価値はしっかり主張しないといけない。
「ホテル代は別でお願いします。それと飲食代も男性持ちで。エッチについてのお金は基本、前払いしてください」
あたしは村岡さんの表情を確認しながら話しはじめた。
「ゴムありで本番一回八万円なんですけど、いいですか? あの、コンドームはつけてくださいね。もしフェラもしてほしければ、ゴムありでプラス三万円でさせてください。フェラチオはあんまり経験なくて、うまくないんですけど」
フェラチオするのは嫌いじゃない。うまいかどうかは別だけど。
「キスはNGにすることもあるんですけど、村岡さんみたいなカッコいい人ならいいかなって思います。あと、優しくしてほしいんで、その……ヘ、ヘンタイ的なプレイとかはやめてください」
あたしは顔が熱くなるのを感じていた。たぶん真っ赤になってる。
自分の値段を言うときは恥ずかしくてたまらないんだ。
村岡さんはあたしの説明をじっと聞いていた。あたしの提示した料金はかなり高額だ。村岡さんなら払える額だと踏んでるけど、どうだろう。
援助交際の相場なんて関係ない。お金をたくさん払ってもらいたければ、お金をもっている人に援助してもらえばいいんだ。要は交渉の持っていき方だ。
村岡さんは何か考えている様子でだまっていた。
うーむ、小さいとはいえ会社の社長さんだって聞いてるから大丈夫だと思ったけど、もしかして不況のせいできびしいのかな。いいスーツ着てるし、腕時計は高級ブランド品だからお金は持ってると思うんだけどな。
一度提示した価格は下げるわけにはいかない。あたしの最低料金は一回五万円だけど、値切りにはいっさい応じないことにしてる。そもそも値切るような男は、その時点でゴメンナサイだ。
でも、村岡さんとはセックスしてみたい。
カッコよくて、優しそうで、たぶんセックスだってうまいはず。
それに、この人のことが好きになりかけていた。
「あたし、あしたは朝から学校に行かないといけないんですけど、早朝にホテルを出ればたぶん間に合うと思うから、泊まりでもいいですよ。村岡さんさえよければ、一晩だけ恋人になってほしいです。もしそうしてくれるなら、料金は――」
村岡さんが手を上げてあたしの話をさえぎった。
そして、ポケットから長財布を出して、一万円札を取り出すと、テーブルの上に置いた。
[援交ダイアリー]
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