おじさんを連れて居間へ行くと、栄寿さんが待っていた。ふたりは挨拶をかわすと、床に腰を下ろした。別に話すことはないというように黙ったままだ。ふたりに確執がなかったとしても、男の人なんてみんなこんな感じなんだろうけどね。
おじさんは袋を脇に置いたままだ。わたしへのプレゼントのはずだけど、渡す気あるのかしら。
わたしはぜひともおじさんに話さなくてはいけないことがあるのを思い出した。
「ねえ、おじさん。実はわたしも栄寿さんも知ってしまったのよ。わたしの出生の秘密について」
しばらくわたしを見つめたあと、何の話なのかわかったらしく、おじさんは眉根をよせた。
「いったいどうして?」
「女の勘よ」
冗談めかして言ったけど、実際そうとしか言いようがない。
「でも、ママに確かめたら教えてくれたわ。栄寿さんがわたしの父親だって」
おじさんはわたしと栄寿さんの顔を交互に見て、それからため息をついた。
「すまない。そのとおりだ。俺は莉子の父親じゃない。栄寿がお前の実の父親なんだ。お前ならわかってくれるだろうが、話せなかったのには理由があるんだ」
「わかってるわ。別に怒ってないから。事情はぜんぶ知ってるし、それが理解できないほど子供じゃないよ」
心配しなくていいよ、というつもりで言ったんだけど、おじさんの目に恐怖がやどった。
「ぜんぶ知ってるって、どこまで知ってるんだ?」
「だから、ぜんぶよ」
おじさんの顔が青ざめた――というか、色が黒いから実際には青ざめてなんかいないんだけど、たぶん青ざめた。
「いろいろあって、莉子ちゃんにはすべてを話したんだよ」
栄寿さんが口を挟んだ。
「すべて話しただと? 莉子はまだ中学生だぞ!」
「中学はもう卒業したってば。もう子供じゃないよ」
わたしの言葉は耳に入らないみたいだ。セックスについての話題だからって、そんなにやっきになって避ける必要ないのに。
「栄寿……、まさか、お前、莉子に妙なことをしてないだろうな……」
おっと、なかなか鋭い。セックスしてることを知ったら、おじさんはどう思うかな。
栄寿さんが口ごもっていると、メイドさんたちがお茶を運んできた。おかげで、肝心なことには触れずにすんだ。
もなかさんはお茶を用意しおわると、おじさんの前にすわって両手をつき、おでこが床につくほど深く頭をさげた。
「ご無沙汰しております、夏目さま」
すぐ横であずきさんも同じように頭をさげて、
「こんにちは、夏目さん」
「ああ、久しぶり。ふたりとも元気そうだな」
そこで、わたしは、夏目おじさんに言わなくてはならないことがもうひとつあったことを思い出した。わたしの出生の秘密なんかより、こっちの方がよほど重大な話だし、なによりわたしが納得できていない。
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