「原因を作ったのはわたしのママなんです。家族の問題にもなかさんたちを巻き込むのは間違っていると思います」
「わたくしもあずきも自分たちの役割を納得して受け入れているんです。そのための対価もいただいていますわ。ですから、どうか、わたくしたちの今の生活を壊さないでください」
「そんなつもりはありません!」
最後のところはよく意味がわからなかったけど、平行線になるだけだと思ったので、それ以上の反論はしなかった。
そのあと別荘に着くまで、ほとんど会話をしなかった。
別荘に着いて車を降りると、もなかさんが頭を下げた。
「さきほどは失礼なことを申しました。お許しください」
「いえ、こちらこそ。あの、もなかさん。わたしはもなかさんもあずきさんも好きになれると思います。どうか滞在中は仲良くしてください。それから、しばらくお世話になります。よろしくお願いします」
そう言って、わたしも頭を下げた。
もなささんは、わたしが栄寿さんとセックスしたことが不愉快なのかな。わたしのことを、誰とでもセックスする愚かな娘と思ってるのかな。別荘にいる間に、わかってもらえたらいいけど。
玄関を入ると、あずきさんが出迎えてくれた。きのうと違って、あずきさんは満面の笑顔でわたしを抱きしめた。
「いらっしゃーい、莉子ちゃん! 待ってたよ。きょうはまた一段とカワイイね」
「こんにちは、あずきさん。また会えてうれしいです」
スリッパに履き替えると家に上がった。もなかさんはスポーツカーをガレージに入れていた。荷物はもなかさんが運んでくれる。
二階のリビングに通されるまでのほんのわずかな時間だけ、あずきさんとふたりきりだ。そこで、さっきもなかさんに言われたように、あずきさん本人に質問することにした。
「ねえ、あずきさん。あずきさんは栄寿さんのことを、生涯ただひとりの男性だって言ってましたよね? あれって、どういう意味なんですか?」
あずきさんはあっけらかんと笑った。
「言葉どおりの意味だよ。実は、あたしはレズビアンなんだ。恋愛もセックスも男は対象外。でも、契約だから栄寿さんとはセックスしなきゃいけない。そういう意味よ」
もなかさんと違って、あけすけに言うので、すこし拍子抜けした。
「びっくりさせちゃったね、莉子ちゃん。同性愛なんて気持ち悪いかな」
「い、いえ、そんなことありません。わたし、そういうことには偏見とか持ってないです。興味もあるし」
そう言うと、あずきさんのほうがびっくりした顔になった。それから目を輝かせて抱きついてきた。
「うれしい、莉子ちゃん。莉子ちゃんみたいなカワイイ子は大好きだよ」
「く、苦しいです、あずきさん。それに興味があるって言っただけで、わたしはレズじゃないですよ」
「あっはっは、ゴメン。もなかはレズビアンについて理解してくれなくてさ。恋バナもできなかったんだよね」
あずきさんは腰を落として、わたしと目の高さを合わせると、
「莉子ちゃんがその気なら、あたしがいろいろ教えてあげるよ。でも、栄寿さんとはもうあんなことしないほうがいいかな、うん」
ほっぺたがぴくぴくするのを感じた。あずきさんも反対してるのか。
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