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このところ世界は終末ブームだ。
今年一年いろいろな事件が起きたせいで、今度こそ本当に地球滅亡ではないかと世界的に噂になっていた。あたしも実はかなり不安をおぼえた方だ。
「二〇一二年には結局なにも起きなかったからね。みんな新しいネタを求めていたのさ。人間は終末論が好きなんだよ」
と、翔(しょう)ちゃんがしたり顔で言ってたっけ。翔ちゃんは地球最期の日なんてぜんぜん信じてなくて、不安に煽られる世間の人たちをバカにしてたけど、その割には終末ネタが好きなのか、いつも目をきらきらさせながら熱く語るのだ。
春先にベテルギウスが超新星爆発を起こしたとき、翔ちゃんは隣の家に住むあたしの部屋に飛び込んできて、
「あかね! すごいぞ、ついに爆発した!」
と、あたしの肩をつかんで、興奮しながらぶるんぶるんと揺さぶったものだ。
天文オタクの翔ちゃんと違って、あたしはベテルギウスがどの星なのかわからなかった。すると翔ちゃんがあたしの手を引いて外に引っ張っていった。昼間だというのに東の空にまばゆく輝く星が見えた。
「オリオン座だよ」
いや、昼間だから見えないし、オリオン座。
爆発のあとで、一年以内に衝撃波が地球を直撃して人類は滅びる、という噂が広がった。専門家の人がテレビで否定してたけど、地球のすぐ近くで星が爆発したのだから、あたしやクラスの友だちは結構心配していた。すると翔ちゃんは、
「天文学的スケールで言えばすぐ近くだけど、六四〇光年も離れてるんだから影響はないよ。爆発したのがシリウスだったら……」
と、オリオン座の左下にある星を指さして、
「地球は壊滅、人類は滅亡だったけどね」
そう言っておもしろそうに笑った。
「あの星も爆発するの?」
「いや、しない。シリウスは距離が近いから明るく見えるけど、質量が小さいから超新星にはなれないんだ。ただ燃え尽きるだけ」
あたしが怖がるので、翔ちゃんは真面目な顔で言った。
夏になると、人工ブラックホールが地球を飲み込んでしまい人類は滅亡する、という噂が広がった。スイスにある施設で以前から実験していたらしいんだけど、どうも本当にブラックホールを作れるかもしれないという実験結果が出て、本格的にブラックホール生成実験をやることになったのだそうだ。
あたしだってブラックホールがどんなものかは知ってる。とてつもなく強い重力でなんでも吸い込んでしまう恐ろしい天体だ。そんなものが人工的に作れるってことも恐ろしいけど、作ってしまったら地球が飲み込まれてしまうだろう。そうなったら地球は滅亡じゃないか。
「いや、だからそんなことにはならないんだ」
翔ちゃんはうんざりしたような口調で言った。
「ブラックホールが作れてもすぐに蒸発して消えてしまうから心配ないよ。だいたい、加速器でブラックホールが作れるなら、宇宙線のエネルギーで毎日何十個も自然にブラックホールが作られて大気圏に降り注いでるはずなんだ。だけど、地球はなんともないだろ? もっとも、俺はブラックホールが作れるって理論には懐疑的だけどね」
そんなこともわからないのかバカな女め、と言われているような気がしたけど、翔ちゃんがブラックホールが作れるかもしれない理論の説明を始めて、あたしはさっぱりついていけず、まあ翔ちゃんが言うんだから間違いないんだろうなと思うしかなかった。
秋になると、今度は小惑星が地球に衝突するという話が持ち上がった。これには翔ちゃんも本気で心配したようだった。
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[星くず迷路]
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