第7話 恋の家庭教師 (15)
しばらく余韻を楽しんだあとで、二回目を誘った。快斗くんのアレはまだまだ元気だ。まずは後背位で興奮させて、屈曲位にチェンジして射精。そのまま騎乗位、そして対面座位でまた射精。さすがにそこで精液が空っぽになったみたい。アレはまだ硬かったけど、快斗くんが痛がったので、最後はやさしく舐めてきれいにしてあげた。
疲れたあたしたちは、抱き合ったまま眠った。
目が覚めたときはもう夜の七時を過ぎていた。シャワーを浴びさせてもらい、もとどおりに服を着た。松田夫人に見られているのを構わず、玄関で快斗くんとじゃれあいながらディープキスを交わした。そのあと、快斗くんに駅まで送ってもらった。
翌日の日曜日、あたしはまた快斗くんの家に行った。
快斗くんといっしょに部屋に行こうとしたら、松田夫人が制した。
「沙希さん、お話があります。どうぞこちらへ。快斗はしばらくはずしていなさい」
あたしは夫人と客間に行き、初めて会って今回のことを依頼されたときと同じように、テーブルをはさんで向かい合った。
「沙希さん、あなたは大変よくやってくれました。お礼を言います。でも、すこしやりすぎてしまったようですね」
夫人は感情のこもらない声で言った。
あたしは黙ってうつむいた。夫人が言っているのは、あたしと快斗くんが恋仲になってしまったのは予想外だったということだ。
「あなたの家庭教師はきょうで終了とさせていただきます。車を用意してありますから、いますぐお帰りください。今後、我が家の敷居をまたぐことは許しません」
突然、客間のドアがいきおいよく開けられて、快斗くんが飛び込んできた。外で聞き耳を立てていたのははじめから気付いてた。
「どういうことだよ、母さん! どうして沙希先生がクビになるんだ!」
「クビにするわけではありません。当初にお願いしていたことがすべて達成されたので、契約を終了するのです」
夫人も快斗くんが盗み聞きしてることはわかっていたらしく、落ち着いて答えた。
それからテーブルの上に封筒を差し出した。
「これは成功報酬ですよ。どうぞ受け取ってくださいな」
「お礼なら全額前金でいただいています」
「これはわたしの気持ちです」
「母さん! 契約終了したからって、どうして沙希先生にはうちの敷居をまたがせないなんて言うんだよ。家庭教師の仕事をやめたって、俺たちは……」
快斗くんはそこで言いよどんだけど、すぐに顔をあげて、
「俺と沙希さんは付き合ってるんだからな。俺の彼女として家に呼ぶのは自由だろ」
「快斗、あなたはこの娘がどういう人か知らないないのよ。あなたが交際していい相手じゃありません」
「知ってるよ! 俺は沙希さんがどういう人なのか知ってる。すばらしい女性だよ」
「この娘は売春をしているのです!」
「だから知ってるって言ってるだろ! わかっていて、それでも沙希さんのことが好きなんだ。母さんがいくら反対したって、俺の気持ちは変わらない」
「あなたにはもっとふさわしい人をお母さんが見つけてあげます」
「そんなのいらないよ! 俺の恋人は俺が決める。それは沙希さんだ。行こう、沙希さん。こんなわからず屋は相手にすることない」
快斗くんがあたしの手を取った。あたしはうつむいたまま何も言わなかった。
松田夫人は取り乱すようすもなく、淡々とつづけた。
「沙希さん。あなたがどうして売春をしているのかは知りません。あなたは信用のおける人です。それは初めて会ったとき、主人にお金を返そうとしたことでわかりました。そんなあなたなら、わかるでしょう? 快斗を好いてくれるのはうれしいけれど、あなたたちの交際を許すわけにはいきません。ぜったいに」
あたしは大きく息を吐き出して、封筒に手を伸ばした。厚みからして百万ちょっとというところか。手切れ金と口止め料だ。
これがあたしの住む世界。
あたしの役目はここまでだ。
涙があふれてきて視界がぼやけた。
あたしは快斗くんの役に立てたかな。
快斗くんの人生の中で、忘れられない思い出になれたかな。
もしそうなれたのなら、あたしが生まれてきたことにも意味があったというものだ。
あたしはお金をもらうと、涙をふいて立ち上がった。
「さよならだよ、快斗くん。最初からそういう契約だったんだ。あたしはお金をもらって、きみとセックスするよう頼まれた。セックスはしたから、お仕事おしまい。それだけ。この二週間、けっこう楽しかったよ」
「ウソだろ。俺の彼女になってくれるって言ったじゃないか」
「なったよ。彼女になった」
快斗くんの方に顔を向けた拍子に涙がこぼれた。あわてて手のひらでぬぐった。
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