第11話 恋のデルタゾーン (03)
「そういえば、好きな子がいるって前に言っていただろ。そいつとその後なにか進展あったのか?」
デリケートな話題だったけど、自分でも驚くほど冷静に受け止めれた。
「援助交際のこと打ち明けたよ。で、告白した。その人もあたしを好きだと言ってくれたんだ。あたしのことを受け止めてくれて、あたしの体のことをキタナイって言わずにセックスもしてくれた。だけど、恋人にはなれなかった」
「そうか」
と、田辺さんはたいして興味もなさそうにつぶやいた。
「あたしさ、嫌だったんだ。あたしみたいな子がその人の彼女になるっていうのがね。あたしはもうまともな恋なんて一生できないのかもしれない」
深刻な顔で言うと、何がおかしかったのか田辺さんが笑い出した。
「ああ、すまん。お前も青春している女子高生なんだなと思ってな。俺に少女の味を教えたのは沙希だが、やはり思春期の子は魅力的だな。幼いところがたまらん」
「ガチ変態発言。大人ってやーね」
笑われて多少ムッとしたものの、本気で腹を立てたわけじゃない。素敵な大人の男性というのはそれに見合う人生経験を積んでいるものだし、そこは謙虚に受け止めるよ。
弱火で二十分ほどカレーを煮込んだあとコンロの火を止めた。来たときと同じフリフリワンピに着替えて、制服衣装をバッグにしまい込む。
「カレーは明日の分もあるから、残った分は鍋ごと冷蔵庫に入れてね。じゃあ、喜史さん、きょうはいっぱい気持ちよくしてくれてありがとう。また喜史さんに抱かれたい。お金ができたら連絡してね」
さよならのキスをして田辺さんのアパートを後にした。その足で行きつけのクリーニング店に行って使用済みの衣装を出し、以前に出しておいた別の衣装を受け取った。それを貸しトランクルームに収納してから、下着だけを入れたバッグを持って帰路についた。
電車に乗ってドアにもたれて立ち、田辺さんとのセックスを思い出してみた。きょうのはすごくよかった。田辺さんはあたしを買うようになってからどんどんセックスがうまくなってる。あの人ならセフレなんていくらでも作れるだろうし、女性の方が離れられなくなるだろう。あたしは高校生だからお金を払うだけの価値があるんだ。もっとも、あたしの方は田辺さんからお金以上のものを得ている。
レイプシチュでのプレイも平気になってきた。田辺さんは女子高生をレイプするのが好きだから、よく制服レイプをリクエストされる。最初のときはトラウマのフラッシュバックが起きてダメだったけど、いまは疑似レイプを楽しめている。
あたしにはレイプ願望がある。お医者さんは防衛機制だと言っていたし、NPOの人は認知の歪みだと言っていた。けれど、レイプされたいというあたしの気持ちもレイプで感じてしまうあたしの体も、あたしにとっては本物のあたしだ。十歳のときにお父さんから強姦されるという形で初体験をしたあたしには、普通の愛情や恋愛感情というものはわからないのかもしれない。拓ちゃんへの恋心は幼いときのもので、思春期になってからの本格的な恋とは違うと思うし。
考えてみれば、いまリピーターになってくれている人たち、あたしが心も体もゆだねてもいいと思える人たち、田辺さんも一条さんも藤堂先生もショウマも、最初はあたしをレイプした。だけど、みんな本当はやさしくて、あたしを愛してくれた。あたしの心の奥底では、たぶん愛されることとレイプされることが繋がってる。素敵な大人の男性から愛のあるレイプで無理やりモノにされるというのが、あたしにとっての恋愛なのだろう。
やっぱりあたしはおかしいんだろうな。
あたしはセックスが好きだし、性の快感を極めたいと思っている。
だけど、援助交際じゃない恋だってしたい。
普通の女の子みたいな恋をしてみたいな。
だって女子高生なんだから。
電車が地下鉄区間を抜けて地上に出た。まぶしい西日に目を細めた。
窓の外を流れる景色をうつむき加減でぼんやりとながめていると、
「ねえ、キミ、ひとり?」
と、声をかけられた。
最初に目に入ったのは素足に履いたごついスニーカーだった。視線を上げると、裾を折り曲げた黒のダメージジーンズに派手な色のナイロンジャケットを着た若い男が立っている。高校生だろう。ワックス付けすぎのマッシュショートはいかにも軽薄そうで、口元にいやらしい笑いを浮かべていた。
ナンパだ。
車内は混んでいるというほどではなかったけど、座席がほとんど埋まっている程度には乗客がいる。断られるに決まってるのに電車の中でナンパしてくるような奴は痴漢と紙一重の変質者だ。
無視してその場から移動しようとすると、男はあたしの逃げ道をふさぐようにドアのガラスに手をついた。そのまま猫背で体をくねらせながら、
「キミ、すっごいカワイイよね。ねえねえ、これからオレとカラオケいかない?」
そう言いながら、顔を近づけてきた。
[援交ダイアリー]
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