「それは友人として――」
「違います。恋愛の対象としてですよ」
言ってしまったことは取り消せない。だったら、誤解のないようにはっきり伝えたほうがいいと思った。
「もなかさんだって本当はわかってるんじゃないんですか? 女同士の恋愛なんてありえないって思うのは個人の自由だし、本当にそう思っているのなら、それは尊重されるべきだと思います。だけど、自分の気持ちを見つめるのが怖くて、世間の常識に合わせているだけなら、そんなのもったいないじゃないですか。ほんのちょっと考え方を変えるだけで、世界が変わって見えるのに」
大人の人を相手にお説教めいたことを言ってしまった。だけど、あずきさんは好きな人に告白して返事をもらえないまま、その人と二年間も同じベッドで寝てるんだ。わたしだったら、そんなのイヤだ。
もなかさんはあずきさんのことが好きなんだと思う。
自分がどういう人間なのか認めるのは怖いことなのかもしれないけど。
ちょっとだけ勇気を出してほしい。
おせっかいなのはわかってる。
こうしてわたしと裸で抱き合ってるんだから、もなかさんだって同性愛を嫌悪しているわけじゃないはずだ。
「もなかさん、キスしてみませんか?」
乳房と乳房をくっつけて、もなかさんと正面から向き合った。もなかさんは恐れをなしたような表情で、ほっぺたを震わせた。返事はない。
かまわず目を閉じて、そっと唇を重ねた。
拒絶しようとはせず、されるままになってる。唇を離して目を開けると、もなかさんもゆっくりと目を開けた。戸惑っているようだけど、嫌がってはいない。見つめながら微笑みかけた。
そして、もう一度キスした。おそるおそる舌を入れてみる。もなかさんが体をぴくんッと硬直させた。びっくりしちゃったかな。
そのままキスを続けていると、もなかさんの体から力が抜けてきた。もなかさんのほうから抱きしめてきた。ふたりの体温が上がっていくような気がする。
ゆっくりと唇を離した。もなかさんが、ふうっと息を大きく吐き出した。
「ファーストキスはイチゴの味だと言いますが、そうでもありませんね」
もなかさんが言った。声に明るさが感じられた。
きっかけは些細なことでいいんだろう。変わりたいという気持ちさえあれば、ほんのちょっとのことで変われるんだ。
「あずきに告白されたとき、返事ができずに逃げてしまいました。それ以来、ずっと逃げていたのですわ。わたくしだけじゃありません。お嬢さまがやってくるまで、わたくしたち三人はそれぞれの人生からずっと逃げていたのです」
もなかさんの口調には何か決意を固めたような力強さが感じられた。
「あの日わたくしがはっきり断らなかったことで、あずきのことも縛っていたのですね。止まった時間の中から抜け出すために、いまからでも返事をするべきなのですわ。恋人にはなれないと。あの子を迷路から解放してあげなくては」
もなかさんは悲しそうに微笑んだ。
恋人にはなれないって……。ちょっと待ってよ。なんでそうなるのよ。
つづく
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