「セフレ?」
「セックスするだけの相手。高校生みたいなんだけど。もしかして、うちの学校の生徒かな。でも、操の前ではそんな素振りも見せないんだね」
「セフレって、先生がそう言ったの?」
「はっきりとじゃないけど。どうも遊びで付き合ってる子がいるみたいなのよね。でも、最近その相手に飽きてきたみたいでね。やっぱり女の子は胸が小振りなほうがいいな、って。だから、あたしなんかぴったりじゃん。ほら、あたし、胸が小さいのがコンプレックスだったでしょ」
「そ、そうだったの?」
操が真琴の胸に目をやった。
「だから、次はあたしが先生と付き合ってもらえそうなんだ。でもね、所詮は教師と生徒だし、恋人同士になっても、多分長続きはしないと思うんだ。そういう意味じゃ、あんたの言うとおり、うまくいかないかもね」
「そんなことわからないじゃない」
「だって、あたしは二年とたたないうちに卒業しちゃうわけでしょ。会う機会だって少なくなるし。それに、卒業したらすぐに大人になるのよ。少女が好きな男の人にとって、女子大生なんてオバサンじゃない。理不尽な話だけど、女子高生じゃなくなったらきっと見向きもされないと思う。そのころには中学を出たばかりの新入生に乗り換えらちゃうにちがいないもの。そう思わない?」
操は真っ青だった。目に涙を浮かべている。真琴の指摘に思い当たることがあるのだろう。操は店に入ってからほとんどしゃべらない。
(思ったより、悪い状況だったみたいだな)
「ねえ、操。気になる男子とかいないの?」
「いないよ、そんなの。あたし、そういうのにあんまり興味ないし。なんで突然あたしの話になるのよ」
と、操がそっと涙を拭うと、から元気だと見え見えな声でこたえた。
「昼間、聡子が言ってたじゃん。操は男子に人気がある、って。あんた、同年代の男の子と少し付き合ってみたらどうかと思うんだ」
真琴はケータイを操作して、ある画面を表示させると、それを操のほうに向けた。
「なにこれ?」
「学校裏サイト。そういうの知ってるでしょ。これは生徒会が管理人まで把握してる裏サイトのひとつなんだけど、うちの学校で誰がかわいいかって話で盛り上がってる。主にあんたとあたしのことが書かれてるのよ」
掲示板の中で、操はミサミサ、真琴は姫と呼ばれていた。ときどき隠し撮りした写真までアップロードされている。
操が顔をしかめた。
「気持ち悪い」
「ファンクラブみたいなものよ。あたしが言いたいのは、操はモテるってこと。広い視野を持って、いろんな男と付き合ってみたほうが、男のことがわかると思う」
「そんなのいらない。真琴とは違うよ。あたしには王子様が一人だけいればいいもの」
そう言うと、操は立ち上がって、
「あたし、帰る」
そのまま振り返りもせずに、店を出て行ってしまった。
残された真琴はため息をついて、ケータイの画面を眺めた。指先で操作してスクロールさせていく。
「このサイトを見せたのは逆効果だったかな……」
ぼんやりと画面を見ていた真琴がふと手を止めた。
画面にはついさっきの店内の様子を写した写真が表示されていた。操がドーナツのクリームをほっぺたにつけたときの写真だ。店内にいる同じ学校の誰かが、二人の様子を隠し撮りしてアップロードしたものだろう。
またため息をつく。
「いやだな、こういうの」
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