第10話 VS担任教師 (08)

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 そんな先生を尻目にあたしはスマホを取り出して、哲也さんにお詫びのメールを書いた。

『さっきはゴメンナサイ。あなたのことは誰にも言わないから安心して。まだあたしを信じてくれるなら、また会ってください。次こそあなたの天使になりたい』

 あたしは哲也さんの信頼を裏切ってしまった。もう会ってくれないかもしれない。いまのイライラした気分は自分の迂闊さに対する怒りが原因だ。

「そんなことより先生の話も聞くんだ。援助交際なんてよくない。傷つくのは美星だし、こんなことを続けていたら、危ないことに巻き込まれてしまうかもしれない」

「あなたにそんなことを言う資格はない。未成年だと知っていてあたしを買ったくせに」

「見ず知らずの少女と自分のクラスの教え子とじゃ話が違う」

「先生が心配してるのは自分の立場だけでしょ? 受け持ちの生徒が援交で警察に補導されたら困る? それとも、あたしが先生に買われたことを言いふらすとでも思った? バカにしないで。だいたい何よ、傷つくのはお前だ、危険な目にあってからじゃ遅い。教師のくせにそんなステレオタイプなことしか言えないの?」

 あたしは昼休みに撮った動画を再生してみせた。

「『美星をヤるのは俺だ』? こんなふうに学校の中だって危険でいっぱいだよ。あたしが中学のとき不登校になったのはどうしてだと思います?」

 絶句したまま隠し撮りされた自分の姿に見入っていた藤堂先生が顔を上げた。

「入学式には出られなくて、すこし遅れて通うことになったんだ。直前に親戚に預けられたあたしには知り合いもいないし、クラスには馴染めなかった。しばらくすると、あの子はヤリマンだという噂を流された。ほら、あたしってなかなかの美少女じゃん。妬まれるんだよね。男子に色目つかってるとか中傷されてさ。実際、あたしのこと好きだっていう男子もいたらしくて、それがけっこう女子に人気の子だったらしいんだ」

「それでイジメにあってたのか?」

「あはは、全裸にされて便器の水を飲まされるのがただのイジメだって言うならね。あたしさ、便所女ってあだ名だったんだよ。休み時間になると女子のグループにトイレに連れて行かれて、服を脱がされて、便器に顔を押し付けられて、何度も水を流されるんだ。バイブレーターを挿れられて動画を撮られたこともあるよ」

「それは……、ちょっとひどいな」

「そうしてヤリマンだっていう噂が広がると、ヤッてもいいんだって思う奴も出てくるわけ。で、上級生の男子に部室に連れ込まれて集団強姦された。もちろん動画も撮られた。ネットにアップされたくなかったら誰にも言うなって脅された。学校に来ないと動画をバラ撒くとも言われて、学校で毎日のように強姦された」

「教師は……、先生は何をしていたんだ」

「生徒指導室に呼び出されて、売春してるって言われた。おまけに売春婦の体かどうかチェックするって言われて体を触られた。指を挿れられて、やっぱり処女じゃないなって責められた。まあ、教師なんてだいたいそんなものだよね。自分たちも加害者のくせに、保身のために問題を隠そうとするんだ。そんな感じだったから、二ヶ月はもたなかった」

「知らなかった。美星がそんな目に遭ってたとは」

「知らなかっただって? あの日、変態プレイはやめて欲しいって言ったのに、あなたは聞いてくれなかった。先生があたしにしたことはレイプだ。自分に罪はないなんて顔はしないで。でも、もし先生があの日のことをバラされるんじゃないかと不安に思ってるなら、心配しないでいいよ。お客の秘密はぜったい守る。お客があたしを裏切らない限りね。先生もきょう話したことは誰にも言わないで」

「それは約束する。他言できるような内容でもない」

「それと、もし援助交際のことを喋ったら、先生に強姦されたと告発するから。この動画があるから先生に勝ち目はない。お互い黙ってた方がいいと思わない? あ、そうそう、下田先生との勝負はとっくの昔に藤堂先生の勝ちだね、おめでとう」

 そう言ってあたしは微笑んだ。たぶん不気味に見えたことだろう。

「下田先生は美星のことをレイプしようと狙っている」

「あなたもでしょ? やればいいじゃん。そうしたら先生のこと軽蔑するけど、援交の秘密を知られているから、あたしは泣き寝入りするしかないもん」

「でも、その秘密を口外したら俺をレイプ魔として告発するんだろ? そのときはたぶん俺の方がダメージが大きい。それとも援助交際をしていることをみんなに知られるくらいなら俺にレイプされても我慢する方を選ぶのか?」

「さあね。試してみたら? 互いが正気だと信じているかぎり、あたしたちはどちらも動けない。秘密は守られる。相互確証破壊ってわけ」

 それを聞いて藤堂先生は吹き出した。

「ずいぶん難しい言葉を知っているんだな。美星はなんだか、おもしろい女の子だ」

「先生が笑ったとこ、いま初めて見たよ。学校でももうすこし笑顔を見せた方がいい。女子生徒のおおいクラスでは特にね」

 先生は弱々しい微笑みを浮かべて、あたしをじっと見つめた。あたしが横を向いても視線をそらそうとしない。だんだんふたりの間の空気に緊張感が満ちていく。

「なに? そんなにジロジロ見ないでよ」

「美星、いまからホテルに行かないか」

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