栄寿さんをぎゅっと抱きしめた。
「好きです、栄寿さん。ママのことは心配しなくても大丈夫。栄寿さんとセックスしたって言ったら、『初体験おめでとう』って言ってくれたんですよ。応援してくれてるんです。栄寿さんだって、きのうはわたしのこと、好きだ、愛してる、って言ってくれたじゃないですか」
「あのときのぼくはどうかしてたんだ」
「どうかしてたのはこれまでの二年間のほうですよ! いまの生活をずっと続けていくなんてダメです。いまのままじゃ誰も幸せになれないじゃないですか。そんなの嫌ですよ。栄寿さんの力になりたいんです」
栄寿さんの前に回ると、栄寿さんの目をまっすぐに見つめた。すると栄寿さんが目を逸らした。わたしは唇を噛んだ。
涙が頬を伝ってこぼれ落ちるのを感じた。
どうしてわかってくれないんだ。
「意気地なし。わたしのバージンを奪ったくせに。もっと栄寿さんとセックスしたい。ママもパパも、セックスはとても素晴らしいものだって言ってた。もっと教えてよ。気持ちよくなるまでセックスのこと教えてよ。栄寿さんに教えて欲しいんだ。だって栄寿さんはわたしの……」
……お父さんなんだから。
うつむいたわたしの目から涙がぽろぽろこぼれて、バルコニーの床に落ちた。
ダメだ。言えない……。
「栄寿さんのこと好きなんだから……。覚悟を決めて、前に踏み出してよ。わたしも栄寿さんのことを受け止めるよ。だから、わたしを女にした責任とってよ」
もしかしたら、いまのわたしはすごくイヤな女の子になってるのかもしれない。
これじゃ、まるで栄寿さんを陥れようとしているみたいだ。
だけど、栄寿さんだってわたしとセックスしたいはず。
みんなが幸せになるには、こうするのがいちばんなんだって信じてる。
だから、悪い子だって思われてもいい。
「栄寿さんには、わたしがついてるよ」
栄寿さんの首に腕を回し、つま先立ちになってぐっと背を伸ばすと、キスをした。
涙が止まらない。
唇を離すと、むりやり微笑みを浮かべて栄寿さんを見つめた。
「ここに来たのは、栄寿さんとセックスするため。ここでいっぱいセックスしたいの。栄寿さんとふたりで幸せになりたい」
栄寿さんも今度は目を逸らさずに見つめ返した。
そして、わたしを胸に抱いた。栄寿さんの鼓動が聞こえた。わたしの心臓の音も伝わってるのかな。
栄寿さんを助けるほかの方法は思いつかない。
セックスを教えて欲しいのは変わらないけど、それ以上に栄寿さんのことを助けたいのに。わたしじゃ力になれないのかな……。
そんなことを考えていると、栄寿さんがわたしを離した。そのまま背を向けて、部屋の中に戻っていってしまった。
呆然と栄寿さんの背中を見ていることしかできなかった。
わたしじゃダメなのか……。
ところが、栄寿さんはダブルベッドのところへ行くと、ベッドの足のキャスターを引き出した。すべての足のキャスターを出すと、ベッドが移動できるようになった。
わけがわからないまま見ていると、ベッドを窓のほうへ押し始めた。窓のサッシのレールを強引に乗り越えて、ベッドをルーフバルコニーに押し出した。きゅるきゅると音を立てて、ベッドが近づいてくる。
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