八十個の餃子を包み終わると、さやかがフライパンで片端から焼いた。餃子どうしがくっつくこともなく、留美が舌を巻くほどの腕前だ。途中でさやかが優奈に交代し、飛び跳ねる油にきゃあきゃあ言いながら、全部の餃子を焼き上げた。
そのあと、さやかがチャーハンを作って、さらに優奈とふたりで留美の家族の夕食まで作ってしまった。三人は留美の部屋に移動して、一時間かけて全部の餃子を平らげた。
(この子の笑顔を守りたい。そのためなら、何だってしてあげる)
優奈の楽しそうな顔を見て、留美はそう思った。
お風呂はみんなで一緒に入れたらいいのにね、と優奈が言ったけれど、さすがにそんなに風呂は広くないから、ひとりずつ順番だ。さやかと優奈のあとで入浴した留美は、風呂からあがったあと、持ってきておいたはずのパジャマと下着がなくなっているのに気づいた。さやかの仕業だな、と思い、とりあえず髪を乾かして化粧水を付け、洗濯物を片付けると、バスタオルを体に巻いて自室に戻った。
「こらァ、さやか! わたしのパンツどこへやった!?」
部屋のドアを開けながらそう言った留美は、さやかと優奈の姿を見て固まった。
優奈はパジャマを着ていなかった。それどころか下着も身に付けていなかった。着替えを持ってくるのを忘れたのかと一瞬思ったが、優奈のパジャマはたたんで部屋のすみに置いてあった。その横にさやかのパジャマが脱ぎ捨ててあった。それにパンツも。
床に敷いた布団の上に、ふたりとも全裸で座っていたのだ。
「なに、ふたりとも、なんで素っ裸なの……?」
留美の困惑を無視して優奈が、
「わたし、留美ちゃんに言わなきゃいけないことがあるんだ」
「いや、だからってどうして裸に……」
さやかがすばやく立ち上がって留美に歩み寄った。
「何も隠さず、すべてをさらけだす、ってこと。優奈の話を聞いてあげよう、留美」
まだ戸惑う留美に手を伸ばすと、さやかは留美の体を包むバスタオルを剥ぎ取った。留美は小さく悲鳴を上げて、胸と股間を手で隠した。さやかは穏やかだけれど真剣な表情で、いたずらをたくらんでいるわけではないようだ。優奈は何か言いたげに、じっと留美を見つめている。
「留美はずっと優奈のことで悩んでただろ? あの宮崎って子からどこまで聞かされたか知らないけど、自分には何もしてあげられない、って悩んでた。そのことでずっと苦しんでる」
留美が目を見開いた。さやかは優奈の中学のときの事件をもう知っているのだ、と悟った。だとすると優奈が自分で話したのだろう。
全裸のさやかは堂々とした態度で、恥ずかしがっている様子はまったくない。大事な話をするなら裸になろう、などと優奈に吹き込んだのはさやかに決まっているが、留美は観念して手をどけた。
「で? どういうこと?」
留美が布団の上に腰を降ろすと、さやかも留美のすぐとなりに座った。優奈はふたりの正面に正座すると、
「実はわたし、中学のとき、援助交際をしてたんだ」
「な、なに言ってるんだよ、優奈。あの噂はデタラメだろ?」
留美は優奈がどういうつもりなのかと訝って、さやかに視線を向けた。さやかは黙って留美を見つめている。
[夏をわたる風]
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