快感のマグマがどんどんせり上がってくるのを感じる。
爆発が近い。
「ああぁぁぁ……ああ……うぐ……ううっ……ああっ、あっ、あっ、あっ……」
そして彩香は全身を痙攣させながら絶叫した。
その声は途中で途切れた。
快感が強くなりすぎて声を出すこともできなくなったのだ。
息を吸うことも吐くこともできない。
頭を大きくのけぞらせて、口を大きく開けて、体を震わせた。
全身の毛穴が開いて大粒の汗が噴きだした。
硬直したせいでこめかみの血管が張り詰め、頭痛をもたらした。
意識が遠くなっていく。
激しすぎる快感に耐え切れず、ブレーカーが落ちるように――、
頭の中が真っ白になった。
その瞬間、苦痛がフッと消え失せ、深い満足感だけが残った。
彩香は何も考えることができなくなって、どこまでも落ちていくような感覚に身をまかせた。
「彩香! 彩香ぁ!」
自分を呼ぶ美緒の声に気づいて、ぼんやりと目を開ける。
すぐ近くに美緒の泣き顔があった。どうやら気絶していたらしい。彩香が意識を取り戻すと美緒が安堵の表情を見せた。
「美緒……」
名前を呼ぶと愛しさが募る。
美緒と触れ合わせているお腹が温かい。きっとそのおかげであんなに気持ちよくなってしまったのだ。
心地よい疲労感につつまれ、徐々に引いていく快感の余韻にひたった。
男根がゆっくりと体内から出て行く。
『調理』が完了したのだと悟った。
触手はゆっくりと、彩香と美緒の体を引き離した。
美緒の股間にうがたれた男根はまだピストン運動をつづけていて、舌による愛撫も止んでいなかった。美緒にはまだマズイ肉になるチャンスがある。
なんとか美緒だけでも逃がすことができれば、この死にも意味がある。
はたしていままでの生に意味なんてあったのだろうか、と思う。
同性愛なんて異常だという世俗の常識にとらわれて、本当の愛から目をそむけていた。
認めたくないという気持ちがレズビアンに対する嫌悪感になっていたのだ。
だからことさらに男との恋愛を求め、たいして好きでもない相手と無意味な時間を過ごしてしまった。交際が長続きしなかったのは当然だ。そこには愛も信頼もなかったのだから。何も気づかずに新しい男を求めていた。ひょっとしたら気づいていながら認めようとしなかっただけなのかもしれないけど。バカみたい。
あたしが意固地だったせいでずっと美緒を傷つけていた。
いくら後悔しても足りない。
でも、それも終わりだ。
最後に彩香は睦実のことを思った。バージンだからとひとりだけ別扱いにされた睦実。今頃いったいどんな恐ろしいことが彼女の身に起きているのか想像もできない。処女には過酷すぎる陵辱だ。しかも睦実はひとりぼっちなのだ。
睦実のために彩香ができることは何もない。
だから、この命は美緒のために使うのだ。
殺されることに対する恐怖は、目の前で美緒が怪物に食べられてしまうことの恐怖に比べたら、どうということはなかった。実際、彩香は死に対する怖れを感じていなかった。
彩香はゆっくりと美緒から引き離され、触手によって高く持ち上げられていく。怪物の本体の方に目をやると、触手が生えている部分の中央に大きな口がバクバクと閉じたり開いたりしているのが見えた。
「彩香ぁ! ダメェ! 行かないで。彩香のことが好きなんだからッ。もっと彩香とキスしたい。彩香とセックスしたいんだからッ」
美緒の告白に答えるべきだろうか。
あたしも本当はあなたが好きなのだと。
友情とは違った意味で好きなのだと。
――いや、ダメだ。
いまでは彩香にもわかっていた。怪物に辱めを受けながら美緒が彩香の名前を呼びつづけていたのは、彩香とセックスする妄想にひたっていたわけではない。わざと彩香に嫌悪感をいだかせてイカせないようにするためだ。いまの美緒が必死に叫んでいるのも同じ。美緒は彩香が同性愛を嫌悪していると思っているからだ。
だから美緒を守るためには、こう返すしかない。
「いいかげんにしろ、美緒! 女同士で恋愛とかセックスとか、キモチ悪いんだよ! 高校のときからあたしをオカズにオナニーしてただって? 美緒がそんなにキモいヤツとは思わなかった。この変態レズ女!」
美緒は一瞬呆然とした表情を見せたあと、顔をゆがめて涙をぽろぽろこぼしはじめた。
触手に犯されていることなど忘れてしまったように、すすり泣きをはじめた。
これでいい。もう性的快感どころではないはずだ。
ところが美緒は突然苦しそうに目を閉じると、全身をピクピク痙攣させた。息ができない様子で、口を大きく開けて必死に呼吸をしようともがいている。お腹をへこませて、足の指を曲げ、両手で触手を握りしめた。その状態が二十秒ほどもつづいたかと思うと、おしっこを漏らした。
またしてもイッたのだ。
すると彩香を捕まえていた触手が動きを止めた。かわりに、ぐったりとなった美緒を捕まえている触手が大きく動き、彩香の頭上を越えた。
なにがどうなったのかわからず呆然とする彩香の見ている前で、触手は美緒の体を怪物の口の中に押し込んだ。
怪物の口がギュッとすぼまり、美緒の姿が見えなくなった。その直後、ブシュゥッという気味の悪い音とともに、怪物の口からイチゴジャムのようなものが飛び出した。ちょうどミニトマトを丸ごと口に入れて奥歯で噛んだ瞬間に果汁が口の端から飛び出してしまったかのように。
怪物の口がグチャグチャと咀嚼するたびに、どろりとした赤いジャム状のものが飛び散る。
彩香は声を出すことも目をそらすこともできなかった。
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