栄寿さんは恥じ入るように吐息をついた。
「当時、高校生だった兄さんが那由多さんと付き合ってるのは知ってた。ぼくも子供ながらに那由多さんのことが好きだったんだ。それで……。ゴメン」
「ママが栄寿さんを押し倒したんでしょ? 栄寿さんが謝ることじゃないですよ」
ママが二十四歳で栄寿さんが十二歳、いや十一歳か。ママにも困ったものだ。でも、ママに負けてはいられない。
「栄寿さんが、わたしのお父さんじゃないんですか?」
「え?」
栄寿さんは呆けた顔をした。その後、顔が青ざめていくのがわかった。
「いや、まさか、そんな……」
「わたしを妊娠したママが、どうして夏目おじさんと結婚しなかったのか、ずっと不思議だったんです。もしかしたら、ふたりはまだ小学生だった栄寿さんをかばって、父親は夏目おじさんだってことにしたんじゃ……」
という理屈はたったいま思いついた。実際のところがどうだったのか、わたしにとってはどうでもいいんだ。わたしの父親はパパだけだから。わたしが遺伝子の半分を誰からもらったかなんて、大した問題じゃない。
栄寿さんはわたしがお兄さんの娘だから手を出せないのかもしれない。だったら、自分の娘かもしれないと思わせれば、心のハードルが下がるんじゃないかと思ったんだ。まあ、子供っぽい浅知恵だったわけだけど。
ところが、栄寿さんには心あたりがあるのか、わたしの思いつきに強烈な説得力があるように感じたらしい。両目を見開いて、わたしから視線をそらすことができない様子で、じっと見つめている。
「莉子ちゃんが……、ぼくの娘……かも……?」
動揺して心に隙ができているに違いない。いまがチャンスだ。わたしはすかさず体にまとっていたシーツを脱ぎ捨てると、栄寿さんの膝の上にすわった。栄寿さんと向かい合う形で見上げ、
「わたしとセックスしたいでしょ?」
栄寿さんの顔が引きつった。
「おいおい、莉子ちゃん」
「わたしは栄寿さんとセックスしたいですよ」
「莉子ちゃん、ぼくたちは親子かもしれないんだよ……」
そう言いかけた栄寿さんの唇を、キスでふさいだ。パパと悠里以外の男性とキスしたのは初めてだ。
わたしは唇を離すと、
「だからですよ。ママのせいで栄寿さんが苦しんでいるなら、娘のわたしが力になるのが当然じゃないですか。十四歳のわたしとだったら、セックスできるはず。わたしが大人になるまでセックスしていけば、大人の女性も平気になると思うんです」
わたしはもう一度、栄寿さんにキスをした。舌を入れて、栄寿さんの舌を探る。唾液が混じり合うのがわかった。
栄寿さんはわたしを引き離そうとはしなかった。びっくりして動けなかったってわけでもないと思う。もうひと押しだ。
「ベッドの上にいる子、わたしにそっくりですよね。わたしに見立ててエッチなことしてたんでしょ?」
栄寿さんは黙ったままだ。図星だったみたい。栄寿さんの胸に顔をうずめて、
「大丈夫。変だなんて思いません。でも、こんなの間違ってますよ。一生、あのラブドールたちとだけセックスして過ごすつもりですか? もなかさんやあずきさんを、誰とも恋愛をさせないまま、ずっと縛りつけておくつもりですか? わたしが一番の適任なんです。わたしのお父さんかもしれないんです。だから、わたしが助けます」
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