「あっはっはっ。それなら心配いらないよ」
優姫さんが紙袋からセーラー服を取り出しながら言った。
「こんなこともあろうかと、このとおりうちの制服を用意しておいたぞ。わたしが去年着てたやつだからちょっと小さいけど。まりもちゃんにはちょうどいいサイズじゃないかな。これなら他校の生徒がまぎれてるなんてわからないだろ」
この学校の生徒に見えるように変装しろということか。
高梨さんも納得した様子で言った。
「それなら安心ね。でも優姫ってそんなに背のびてた?」
「いやぁ、胸がきつくなってね」
優姫さんは大きなバストをゆさゆさと揺すりながら言った。
それだけは絶対ない。
あたしは家庭科準備室で制服を着替えた。ちょっと大きい。セーラー服は着にくいうえに胸元とウエストがすーすーする。それにスカートが短すぎるようだ。優姫さんは今日も丈の長めのスカートをはいていたけど、ここまでに見たほかの女子生徒の半分くらいはミニスカート姿だった。あたしの中学ではミニスカートは禁止だったから、これまたドキドキする体験だった。あたしは姿見の前でくるくる回ってみたり、ポーズをとってみたりした。高校生になった自分のことなど想像もつかないけど、なんだかわくわくする。
家庭科室に戻ると、女子高生たちにセーラー服姿のことでまた冷やかされた。そのあとで、あたしは優姫さんに見てもらいながらチョコレート作りに取り掛かった。
あたしは一晩考えた末、ベーシックに生チョコを作ることにしていた。大人っぽい雰囲気があるわりに、自分にも作れそうだったから。
包丁でチョコを刻んでいるあいだ、高梨さんが話しかけてきた。
「制服、似合ってるよ。西村さんは高校はどこにいくの?」
「一応、カナ女を目指してるんですけど」
あたしが答えるとすぐ優姫さんが話に加わってきた。
「カナ女かあ。わたしもほんとはカナ女に行きたかったんだよね。あこがれの名門女子校だし。あそこ、制服がすんごくカワイイし。入学案内は取り寄せたんだけど、やっぱりわたしじゃ条件に合わなくて、あきらめたよ」
「残念だけど、優姫は無理よね」
そりゃそうだ。でも、こうして一緒にチョコ作りなんかしていると、優姫さんが男の子だということをつい忘れてしまいそうになる。
「でもカナ女の制服だけは買ったんだ。普段着として使ってるよ」
ああ、優姫さんならきっとよく似合うのだろう。でも、どんなに見た目が美少女でも、実際には男の人なんだ。だから優姫さんはお兄ちゃんの彼女にはなれないのだ。そのはずだ。そう思った。
チョコレートを刻んだら、次は湯煎で溶かす。優姫さんが温度計で温度を測りながら、あたしに指示を出してくれる。その一方で、優姫さんはあたしが来る前に作ってあったチョコレートをバットから取り出して、一口サイズに切っては、手で丸めていた。トリュフを作るのだそうだ。
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