快感ストーム(05)

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 亜里沙はゆったりしたバスローブをまとい、紅林コーチとならんでモニターの前に置かれたソファに座った。

 鏡の間の窓は分厚い遮光カーテンで覆われていた。しかし、テレビ中継用に灯された明るいライトが回転ベッドを照らしている。体験中はライトのまぶしさに注意しないといけないな、と亜里沙は思った。

 モニターの中で小林アナが会場の説明をしている。一時間前に小林アナが統和にインタビューした放送も見ていた。統和は「セックスをすることで人と人とが心も体も一つになってわかりあえる、その素晴らしさを知ってほしい」と答えていた。亜里沙は統和とわかりあえていない気がしていたのに。統和はアーティストとしてもっと高みを目指している。そのためにペアを組む別の女性を探しているのではないか。この数週間、そんな疑念が頭を離れない。それが亜里沙の不調を招いて、その不調が統和の目をほかの女に向けさせているのだとしたら救いようのない話だ。だから、なんとしてもハイスコアを叩き出して金メダルをものにしなければと、改めて思った。

『さあ、ドイツのシュミットとベルガーが全裸で回転ベッドの前に姿を見せました。いよいよ、今大会で初めてオリンピック種目となるスポーツセックス、その男女ペアの本戦が始まります』

 最初のペアの入場で小林アナが実況を始めた。

 紅林コーチはレセプターレゾナンスのレシーバーを頭にかぶった。

「アタシはルイーゼ・ベルガーの体験を共有するわ」

 体験の記録はサーバーを通じて競技関係者に配信される。自分の本戦を控えている亜里沙は影響を避けるために他のペアの競技は見るだけだ。

『シュミットとベルガーはともに二十六歳。昨年のワールドカップでは男女ペアショートで惜しくも予選落ち。今大会どこまで上位に食い込めるか。豊川さん、このペアはふたりともレシーバーをつけていますね。これはどういったことでしょうか?』

『これは自分自身の体験をモニタリングすることで、より精密なセックスを組み立てようという手法ですね。日本ではロマンを重視する選手が多いので味気ないといってあまり使われないのですが、ヨーロッパでは割りと一般的です。ドイツのテレマン監督はデータセックスでチームを強くしてきた実績がありますから、お手並み拝見というところですね』

『さあ、いま時計がスタートしました。体験開始。まずはシュミットがベルガーの体を抱き寄せてキス。おーっと、これはいきなり情熱的なキスですね』

『いまのキスは見事でした。心なしか審査員も顔を赤らめているように見えます』

『さて、ベルガーがシュミットを押し倒して体を重ねました。ベルガーが乳房を押し付けるたびにシュミットの興奮が伝わってきます。放送席ではわたしがシュミット選手、豊川さんはベルガー選手の体験を共有しています。豊川さん、シュミットが仰向けで女性のベルガーが奉仕するスタイル。挿入は騎乗位でしょうか』

『ウーマン・オン・トップ戦法ですね。男女平等を大切にするヨーロッパでは好まれるスタイルです』

 ベルガーがフェラチオを始めると、亜里沙は二人の体験に興味をなくした。日本チームをおびやかすほどの実力は到底ない。シュミットのモノは白人としても大きい方だったが、柔らかそうで魅力を感じなかった。日本の女性は硬さを重視するけれど、海外では大きさが正義という風潮がある。亜里沙にとっては、統和の鉄のように硬いモノで奥を突かれる快感の方がいとしかった。

 ドイツペアは長い前戯のあと、騎乗位で挿入、そこから正常位に移行してフィニッシュした。

『シュミットとベルガーのセックス体験が終了しました。モニターにはそれぞれの快感曲線が表示されています。豊川さん、手堅いセックスでしたね』

『そうですね。快感曲線を見てもわかるように、二人とも最初はかなり緊張していたのか、キスのあとはなかなか盛り上がらなかったのですが、挿入後は巻き返してきました。ベルガーのリズミカルな腰の動きで流れをつかんだようですね。セックスの構成も堅実で、確実に点を取っていこうというやり方でした。ただですね、メダルを取るにはもっと積極的に攻めていくことも重要ですから、そこが今後の課題でしょうね』

 紅林コーチはレシーバーをはずしながら、自分がこの世界の第一人者だという口調で、

「データセックスねえ。アタシのやり方とは違うわね。セックスは究極のコミュニケーション。男と女が互いの感情と欲望をぶつけ合う理不尽な場よ。データで割り切れるものじゃないわ。亜里沙と統和きゅんの関係もそう。気になることがあるなら、ぶつけ合ってみたらどうかしら」

 亜里沙はしばらくコーチを見つめてから、

「統和はほかの女性とペアを組みたがっているんじゃないですか?」

「それで悩んでいたのね。恋人関係よりこじれやすい問題だわ。スポーツの世界ではペアの解消や、ペアを組んでいても内心はすごく仲が悪いということだって普通にある話よ。でも、あなたたちは相性がいいと思うけど? 何か心当たりでもあるのかしら?」

 亜里沙は肩をすくめただけだった。統和はほかの女子プレイヤーと頻繁にセックスしているが、それは以前と変わらない。プレイヤーなら当たり前のことだ。

(もしかしたら変わったのは統和ではなく、わたしの方なのかな……?)

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