真っ白でやわらかな光。
ふかふかのベッド。
永遠につづくかと思われたオーガズムの波が徐々に引いていくと、彩香と美緒はそっと目を開いた。
ふたりは抱き合って横たわったまま見つめ合った。
「わたしたち、死んだのね? ここは天国?」
「たぶんね。美緒といっしょにいられるなら、どこだっていいよ」
何が起きたのかわからない。自分たちがどうなったのかわからない。何も考えることができない。
けれど、そんなのは些細なことだ。
彩香は深い満足としあわせを感じていた。美緒への愛しさにあふれていた。
美緒はうっとりと彩香を見つめ、かすかに微笑んで目を閉じた。
キス。
「ん……、んふ……」
「はむ……、んん……」
いつまでもキスしていたい。
いつまでも美緒の体温を感じていたい。
いつまでも――。
「いつまでも何やってるの、ふたりとも」
いきなり頭の上から声がして、彩香と美緒はキスをしたまま固まった。
朝日がのぼったように意識がクリアになっていった。ふたりだけの時間に割り込んできたのが、いまではなつかしさすら覚える睦実の声だと気づくと、彩香は体を起こして声がした方を見た。
彩香と美緒が横たわっている円形のベッドのわきに、白いガウンを着た睦実が立っていた。両手を腰に当てて、授業をエスケープした生徒を見つけた教師のような表情で見下ろしている。
最初に思ったのは、睦実もまた理不尽に殺されてしまい天国に召されてきたのだ、という悲しみだった。しかし、睦実の後ろに白衣にピンク髪の女性が笑顔で立っているのを見て、彩香はひょっとしたら自分はまだ死んではいないのではないかと思い始めた。
「いかがでしたか、当店のスペシャルコースは?」
「……スペシャル……コース……? ……え?」
彩香は放心したまま美緒と顔を見合わせた。
何がどうなったのか、さっぱりわからない。
睦実は前かがみになって彩香と美緒の顔と体をじろじろ見た。何かを確認するように彩香の太ももをなでまわす。
「あーちゃんも美緒ちゃんも、さっきと比べてぜんぜんキレイになってる。どーゆーこと? スゴイ。店員さん、ボクにも大人の女性向けコースをしてください」
「ダメです。乙女の方には刺激が強すぎて、かえってマイナスなんですよ」
そういえばエステに来ていたのだった、と、ぼんやりとした記憶がよみがえる。
じゃあ、あのスライムは? 触手のバケモノは?
「夢……だったのかしら……」
と、美緒がつぶやいた。
そんなわけがあるか!
彩香は跳ね起きるとベッドから店員のところにジャンプした。両手で店員の肩をつかんで揺さぶりながら、
「ちょっと! どーゆーことだよッ! あんた、あたしたちに何をした。いったいアレはなんだったんだッ」
「何って、エステですよぉ」
「あのスライムみたいな怪物がエステなもんか! 洞窟みたいな場所でスライムのエサにしようとしただろ」
「あ、あれは岩盤浴ですよ。スライムとおっしゃってるのは当店オリジナルのディープクレンジングオイルなんですぅ」
店員は彩香の剣幕に泣きそうな顔で説明した。
「だったら、あの白玉ぜんざいは何だよ。あたしたちが、う……産まされた……た、卵みたいなものは?」
「卵じゃありません。デトックスで体の毒素や老廃物を排出したんですってば。生理は女性の体に備わっている自然のデトックスのしくみなんですよ。当店では子宮のデトックスを行って、体のデトックス機能を活性化する施術を行っているんです」
「じゃ、じゃあ、触手のお化けは? あたしたちをさんざん辱めて、その……、ハレンチな行為を……」
「もちろんあれは全身マッサージですよ。体の外と中から全身を解きほぐし、めくるめくオルガスムが心まで解放する――、ああ、痛い痛い、乱暴はやめてください。ガイドボールの説明を聞いてなかったんですか」
彩香はこぶしで店員のこめかみをグリグリしながら、
「あのふわふわ浮かぶボールのことなら、最初に触手がチョコの池に叩き落として故障しちゃったよ」
店員はポケットから携帯端末のようなものを取り出して何やら操作した。
「うわぁ、大変! ホントですぅ。じゃあ、おふたりともコースの内容について何の説明もなかったんですか?」
「なかったよ! おかげであたしたちがどんな思いをしたと思ってんだッ」
「ひぃぃっ、痛いですぅ~。当店のミスですぅ、許してくださぁい」
「まあまあ、彩香ったら。もうそのへんで許してあげましょうよ。悪気があったわけじゃなくて、手違いだったのよ。それに――、けっこうよかったし……ね」
と、美緒がほっぺたを赤くしながら言った。
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