「まったく、このお姫さまは。相沢、あんた結婚を決めた相手としか交際しないとか、思ってんじゃないでしょーね?」
「いやー、卒業したら結婚、っていうのもあこがれちゃうな、なんて思ってたりするんだけどね」
実のところ、矢萩との結婚が操の第一志望なのだった。操が照れながら答えると、聡子が、
「結婚の前にまず恋愛でしょ。あんた、自分では気づいてないのかも知れないけど、男子にはかなり人気あんのよ。それも三年生や一年生にまでよ。相沢さえその気になれば、よりどりみどりなのよ。第一、いまのうちに免疫つけとかないと、大人になってからかかると重症になるわよ」
「そんな、おたふく風邪や麻疹じゃあるまいし」
「思春期の恋は麻疹みたいなものよ。あたしはね、初心で恋愛経験のない相沢が、ろくでもない男に引っかかって、人生苦労するんじゃないかと心配なんよ。いやいや、相沢ほどの巨乳なら、悪い男に騙されてAV女優として売り飛ばされるなんてことも……」
「あるわけねーだろ!」
恋愛に興味がないわけない。操の初恋は九歳のときだった。それ以来、何人かの男の子を好きになったことがある。告白したり交際したりしたことはなかったけど、恋愛経験がないということはないだろう。セックスにだって小学生のころから興味があったし、オナニーも低学年のころからしている。
ただ、いまは矢萩という恋人がいるので、言い寄ってくる男子はすべて断っている。おまけに交際していることは秘密なので、恋愛関係の話題にはなるべく加わらないようにしているのだ。そのせいで操は恋愛に疎いのだと思われるようになり、操にとってもそれは好都合だったので、訂正することもしなかった。
聡子が心配するようなことはないのだ、と操は思った。しかし真琴が、
「あたしも、操のことはちょっと心配だな」
と、頬杖をつきながら、まじめな表情で言った。
「なによ、真琴まで」
「操って、男好きのする体じゃん」
真琴がそう言うので、操はおもわず両手で胸のふくらみを覆った。
「エロいこと言わないでよ」
「悪い。つまりさ、あんたの場合、体だけが目的で言い寄ってくる男子も相当いるだろうな、ってこと。まあ、仕方ないことなんだけど。だから恋に恋する乙女みたいな気持ちでいると、危ないって思うんだよ。体だけさんざん弄ばれて、飽きたから捨てられるなんて、イヤでしょ。全部がそうだとは言わないけどさ、悪い男はたくさんいるんだから」
真琴はあくまで真剣な表情だったので、操もこの親友が自分のことを本当に思っているのだと感じた。
「肝に銘じておくわよ」
操が神妙な面持ちでそう言うと、少しのあいだ沈黙が訪れた。すると、まじめな雰囲気は性に合わないとでもいうように、聡子が明るい声で話題を変えた。
「ところでさー、矢萩が結婚するって噂があるんだけどね。相沢は矢萩から何か聞いてない?」
操の動きが止まった。何か二人の交際がばれるようなヘマをしたのだろうか。それにしても結婚なんて飛躍しすぎだ。まあ、ウワサなんて尾ひれがつくものだが。
そんなふうに思いながら、どういうわけか真琴のほうが聡子の言葉にショックを受けている様子なのが、操は気になった。
「そんなのデマでしょ? 矢萩先生からはなんにも聞いてないわよ」
操は答えた。矢萩とのことをごまかすときにいつも自然に出てくる平静さだ。
聡子は期待はずれの答えにがっかりした様子で言葉をつづけた。
「ま、結婚はデマかもね。でも、こないだの日曜日に、矢萩がデートしているところを目撃されたというのは本当なのよ。一組にいるわたしの友だちの目撃情報によると、長い黒髪の美女と、腕を組んで歩いていたそうなの。それもブライダルサロンの前でウェディングドレスを見ていたらしい。かなーり、親密な様子だったそうよ。まあ、美女、というところは誇張入ってるかもね」
そう言いながら、聡子は右手に箸を持ったまま左手でケータイを取り出すと、ボタンを操作して、
「これがそのときの証拠写真よ」
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