しばらくのあいだ三ツ沢さんとオナニーの体験談で盛り上がった。
ありがたいことに、三ツ沢さんはあたしが処女かどうか訊こうとはしなかった。
ローターがよほど気になるらしく、ブラウスの上から胸に押し当てて、きゃっきゃっとはしゃいでみせた。
女子同士で彼氏の話をしてる子はよく見かける。でも、性の話をしてる子は見たことがない。あたしには友達がほとんどいないから、もしかして知らないだけでセックスやオナニーの話はみんな陰でしてるのかもしれないと思っていた。
そして、あたしはオナニーの話を友達としてみたいと思っていた。
「だって、恥ずかしいじゃん」
と、三ツ沢さんは笑った。三ツ沢さんも性の話は友達とはしないそうだ。まあ、する子はいるんだろうけど。
昼休みの残り時間がすくなくなってくると、あたしたちは保健室を出て教室に向かった。その途中で、恵梨香先輩に出会った。普段なら姿を見かけた時点で隠れてしまうのだけど、いまは三ツ沢さんが一緒なのでそうはいかなかった。
「沙希、具合はもういいのかい?」
と生徒会長は訊いた。どうやら出会ったのは偶然じゃないらしい。教室にあたしに会いに来て、保健室に行ったことを知ったのだろう。
「はい、ぜんぜん大丈夫です。もう平気ですから」
努めて明るく答え、会釈をして通りすぎようとすると、恵梨香先輩に呼び止められた。
「沙希に話があるんだ。ふたりきりで」
「なら、こんどゆっくり――」
「こんどなんて言っている暇はない。クリスマスイブのことなんだ」
なにやら思いつめた表情だ。
雰囲気を察した三ツ沢さんは、先に教室に戻ってると言い残して立ち去った。
恵梨香先輩はあたりに人がいないのを確かめてから、あたしの目を見つめた。
「クリスマスイブに二年生の特進クラスの仲のいい連中があつまって、クリスマスパーティーをするんだ。鳴海も誘っている。そのとき、わたしは彼に気持ちを伝えようと思う」
あたしは目をそらすことなく聞いた。
恵梨香先輩もあたしから目をそらそうとしない。まるで拓ちゃんに告白するのを止めて欲しいみたいに、返事を待っている。
あたしはゆっくり息を吐き出すと、目を伏せた。
「まだ、拓ちゃんに告白してなかったんですか」
「わたしは、おそらくフラれるだろう。それでも気持ちを伝えたい。もうこれ以上、じっとしてはいられない。わたしは鳴海に恋愛の対象として認知してもらいたいのだ」
「あたしに断る必要なんてないです。あたしは拓ちゃんの彼女にはなれません。あたしにはそんな資格ないです」
「だが、鳴海はいまでもきみのことが好きなのだ!」
恵梨香先輩が語気を強めた。
「拓ちゃんには告白されましたけど、断りました」
「あいつはそうは思っていない。わたしは鳴海からきみのことで相談を受けた。沙希、きみは本当にあいつをフッたのか? 恋人にはなれないとはっきり伝えたのか? わたしが聞いたのは、告白されたきみが泣きながら逃げてしまったということだけだ」
「だから、拓ちゃんをちゃんとフッてほしいということですか? あたしにどうしろっていうんです。拓ちゃんがあたしをあきらめるようにしてほしいんですか?」
「そんなことは言っていない! わたしはただ、鳴海の気持ちを受け止めてやってほしいだけだ。本当はきみも鳴海のことが好きなのだろう? 沙希が鳴海の恋人になるなら、わたしは納得できるし、あきらめられる。それに、あいつは――」
と、恵梨香先輩は言葉を切ると、絞りだすような声で、
「あいつなら、きみを受け止めてくれると思う」
それを聞いて体温が下がるような気がした。
いろいろな考えが頭のなかで渦巻いた。
恵梨香先輩はあたしが中学のとき野球部の男子に集団レイプされたことを知っている。そのことが原因であたしが拓ちゃんの気持ちを受け入れられないのだと考えてる。現実はそんなに単純じゃないのに。
「本当のことを知ったら拓ちゃんがあたしを許してくれるはずありません。普通の男の子なら、ほかの男たちにヤリまくられた子を彼女なんかにしません」
「鳴海はそんな男じゃない。きみは望んでそうなったわけじゃないだろう? なのにどうしてそんなに自分を貶めるようなことばかり言うんだ。鳴海なら――」
「本当のあたしのことなんて、なんにも知らないくせに!」
恵梨香先輩はあたしが援助交際をしてることを知らない。
援助交際を楽しんでることを知らない。
「本当のことを言ったら拓ちゃんはあたしをキライになるに決まってる。恵梨香先輩はそれが望みなんでしょ? だから、本当のことを打ち明けるようにあたしをけしかけるんだ。あたしが嫌われれば自分にもチャンスができるから!」
[援交ダイアリー]
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