焦って拓ちゃんの顔を見た。
「笑っちゃうよな、俺たちが恋人同士ってことになってるなんてな。気にすることはないだろ。俺は美人の彼女がいて鼻が高いぜ」
「な……! わ、笑い事じゃないよ」
一気に顔が熱くなるのを感じた。胸がドキドキする。
たしかに拓ちゃんとは仲良しだけど、ほかの人の目には恋人同士に見えるのかな。
もしそうなら、ちょっとうれしいかも。なんか、ほっぺたが緩む。
「なんだぁ? 沙希、もしかして俺が彼氏じゃ不服なのかぁ? お前、子供の頃、大人になったら俺のお嫁さんになるって言ってたじゃんか」
「そそそ、そんなの小さいときの話じゃないのッ」
あたしが慌てるのを見て拓ちゃんが大笑いした。
そんな拓ちゃんを放っておいて、ページをフリックした。下の方にはあたしの写真が何枚も貼り付けられていた。どれもこれも隠し撮りされたものだ。学校内で撮られたもの、路上で撮られたもの、制服姿もあれば私服姿もある。
ゾッとした。
これはどう見てもストーカーのしわざだ。
クラスはともかく、血液型やブラのカップサイズまでどうやって調べたのか。
「ねえ、拓ちゃん。あたしってミステリアスな女かな?」
「え? どうかな。俺たち、一緒に風呂に入ったこともある仲だしな。――ふっふっふっ、俺はお前のすべてを知っているぞ。隅々までな」
「やらしいこと言わないで」
こぶしで拓ちゃんのこめかみをグリグリすると、拓ちゃんは悪ふざけを謝った。
拓ちゃんは男の子だから、こういうことに頓着しないのかもしれない。でも、女にとってはこれはリアルな危険だ。いたるところで隠し撮りされた写真をネットにアップロードされ、自分の知らないところで順位付けされる。
気持ち悪くてたまらない。
それに、あたしにはほかの女子にはない特別な事情がある。
もしもストーカーの生徒に援助交際の現場を見られたら……。
あるいは、お客になる人がこのサイトを見て身バレしてしまったら……。
これはまずい。
とりあえずランキングサイトのアドレスとパスワードを拓ちゃんに教えてもらった。だからといって、どうすればいいのか見当もつかない。
部室に寄っていくと拓ちゃんが言うので、校門を入ったところで別れた。あたしは上の空で手を振り、姿が見えなくなるまでぼんやりと拓ちゃんの背中を見ていた。
ためいき。
しかなたく四個の手提げ袋を持って校舎の方に歩き始めると、別の子にまたもやうしろから声をかけられた。
「み、ほ、しぃ。見てたぞ。あんたやっぱり鳴海先輩と付き合ってたのね?」
同じクラスの三ツ沢茉莉さんだった。
三ツ沢さんは馴れ馴れしくあたしの首に腕をまわして引っ張った。不愉快に思ったけど、手荷物のせいで抵抗できない。
「つ、付き合ってなんかいないよ」
「まーたまた。前から怪しかったけど、さっきの雰囲気はどう見ても彼氏彼女でしょ」
あたしはムスッとした。三ツ沢さんに言われてもニヤける気になれない。
三ツ沢さんとは取り立てて親しい間柄ではない。文化祭で一緒にアリス役をやることになるまでは、ほとんど話したこともなかった。いつも明るく、クラスの人気者で、友達も多い。あたしとは正反対のタイプだ。
「彼氏じゃないってば。三ツ沢さん、そーゆーの迷惑なんだけど」
「えー、なんでぇ? 鳴海先輩、カッコいいじゃん。美星も美人だし。お似合いだと思う。向こうだって、美少女ランキング八位の子が彼女だなんて、うれしいと思うけどな」
またそれかッ。
どこまで広まっているんだろう。
「あ、荷物半分持ってあげるよ。これ、アリスの衣装? 見せて見せて」
と、三ツ沢さんが手提げ袋に手を伸ばした。あたしはその手をよけて、
「こんなところでやめてよ。それに重くはないから自分で持てる」
「遠慮しないでよ、わたしたち友達でしょ。美少女ランキングでも美星に五回も投票したんだよ。親友になれると思うなぁ。そういえばランキングにも、あんたが鳴海先輩の彼女だって書かれてたし、ほんとに恋人じゃないの? まだ告白してないってこと? 片想い? だったらさっさと告っちゃえば? ぜったいOKだって」
「恋人じゃないし片想いもしてない。拓ちゃんはあたしのいとこ。親戚。それ以上でも以下でもないよ」
あたしはつい語気を荒げてしまった。三ツ沢さんもちょっと驚いたような顔をした。
「いとこ? そうなんだ。美星って男子に人気あるのに、鳴海先輩以外の男子と話してるとこ見たことなかったから、てっきり付き合ってるんだと思った」
[援交ダイアリー]
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