ピンクローターの思い出(16)Fin
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まどかの言葉に、雄太はつばを飲み込んで唇を震わせた。
「そんなデタラメ……、信じると思うのか……?」
そう言いながらも否定しきれない自分に恐れを感じているようだった。まどかはなぐさめるように悲しげな笑みを浮かべた。
「信じなくてもいいけど、あたしがフーゾクやってるのは見ての通りの事実だよ」
雄太が黙り込んでしまったので、まどかは寂しそうに肩をすくめた。それから、さりげなく体を雄太にくっつけて、太ももを雄太の脚に押し付けた。
「でも、懐かしいなぁ。あ、おじいさんの本は全部読破した? たくさんあったもんね。あたし、最近、古本屋さんで『彩雲国物語』と『マリア様がみてる』の全巻セットを買ってね、待機部屋とかで読んでるんだよ。あとね、ジャック・ヒギンズさんにハマってるよ。『死にゆく者への祈り』とか」
「少女向けのラノベとイギリス冒険小説か。ずいぶんと振れ幅が大きいな」
小学生の頃に一度だけしたデート。あのときと同じように好きな本のことを無邪気に話すまどかに雄太は悲しそうな目で苦笑した。
「新田……、いまのお前がどうであろうと、お前は昔のままの読書好きの女の子だ」
「あたしね、小学生のとき、中川くんのことが好きだった」
まどかがDカップの胸を押し付けながら言った。それから冗談めかした笑いを浮かべて、
「まあ、子供の頃の話だけどね」
と、軽くキスをした。
雄太は優しいまなざしでまどかを見つめ、キスを返した。まどかを抱きしめ、舌を入れ、深く長いキスをした。
六年生のあの日と同じように、雄太は自制心をなくしていた。子供の頃とは比べ物にならないまどかの色香にあらがうことなどできなかった。先程からのまどかの誘惑に、誘惑されていること自体に気づかないほど、雄太は取り込まれていた。
まどかの服を脱がし、自分の服も脱いだ。熱に浮かされたようにまどかを求め、まだどこか幼さを残した体をむさぼった。前戯もそこそこに、まどかの脚を開かせ、奥深くに押し入った。荒々しいピストンに文句を言うこともなく、まどかは雄太を抱きしめた。雄太の息が荒くなり、絶頂に達しようとする瞬間、まどかは出ていこうとする雄太を全身で引き止めた。
「中に出して。雄太がほしいの」
雄太がためらっているうちに、アレが暴発した。まどかはアソコの中で脈打つ雄太を感じ、雄太をぎゅうっと抱きしめてキスをした。
「心配しないで。きょうは大丈夫な日だから」
放心した表情でまどかの熱っぽい顔を見つめていた雄太は、やがて我に返ると、
「まどか、もう一回してもいいか?」
「やっと名前で呼んでくれた。いいよ。気が済むまであたしを楽しんで」
アレはまだ大きく硬いままだ。雄太はふたたび動きはじめた。
まどかと雄太は何も考えず、ただひたすら互いを求め合った。
何度もまどかの中に射精し、とうとう雄太はぐったりして動けなくなった。二人はベッドで抱き合いながら、すこしまどろんだ。
まどかはシャワーを浴びる時間も惜しんで、時間いっぱいまで雄太の腕に抱かれていた。まどかが服を着て髪をとかしていると、雄太がベッドの中から、
「また会えるよね?」
と尋ねた。
「指名してよ。予約が空いていたらね」
まどかは背を向けたままそっけなく答えた。
「覚えているか? あの日――、オレたちが初めて言葉を交わした日、放課後の教室で新田が読んでいた本。『愛の妖精』ってやつ。オレも読んでみたよ」
「あれはあたしの一番好きなお話。いまでも時々読み返してる」
「村の嫌われ者だったヒロインのファデットは最後にランドリーと結ばれる」
まどかは笑った。
「もしもファデットが売春をしていたらランドリーだって彼女を好きにならなかったと思うけどな」
「時代が違うよ。いまは二十一世紀だぞ」
雄太は真顔で言った。まどかは複雑な表情で雄太を見つめた。
まどかは力が抜けたようにフッと笑った。
「そうだね。そうかも知れないね。じゃあ、あたしはこれで失礼するよ。ねえ、雄太。色っぽいあたしのカラダが恋しくなるのはしょうがないけど、宇田川さんみたいないい子は大切にしてあげなよ。彼女と仲良くしてね。バイバイ」
「ああ。また連絡するよ」
部屋を出たあと、まどかはしばらくドアにもたれてじっとしていた。
ワンピースの上からおなかをさする。ここに雄太の精子がたっぷり注ぎ込まれている。まだ熱を感じるほどだ。
不意に、あの冬の日の放課後の出来事が思い出された。
『おい、新田。ひとりで何をやっているんだ?』
初めて声をかけてくれたときのこと。小学生のときの雄太との会話はいまでもぜんぶ思い出せる。
「まったく。中川くんはいつもあたしを見つけてくれるんだね。けれど、あたしは……」
切なさが押し寄せて、まどかは震えながら両手で自分を抱きしめた。
翌日、雄太がまどかの店に連絡すると、まどかは店をやめていた。風俗情報誌や案内所を頼りに探してみたが、まどかの行き先はわからなかった。それでも探し続けた。
いまも雄太はまどかを探している。
おわり
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