なんてことだ。
わたしはいかにも中学生な自分の姿を見下ろした。カンペキに負けてる。
いやいや、まだそうと決まったわけじゃない。
「もしかして、栄寿さんのエッチなお世話もしてたりして。エヘヘヘッ」
わざと冗談めかして訊いてみた。ずいぶん礼儀知らずな質問だけれど、子供の言うことだから許してもらえるよねっ。
「……」
なんだ、その沈黙はッ。
もなかさんは顔を赤らめて照れ笑いをすると、
「いやですわ、莉子お嬢さま。大人をからかうものではありませんよ」
黒革の丸い六角形のハンドルの裏に付いているパドルを、もなかさんが指先で軽く操作した。車が急加速して、わたしの上半身がシートにめりこんだ。
海岸沿いの道路は広くて、ほかの車はいない。もなかさんはそのまま制限速度を無視して疾走した。おかげで、三分もすると栄寿さんの住む別荘に着いてしまい、わたしはそれ以上、詳しい話を訊くことができなかった。
もなかさんは栄寿さんの恋人なのかな。
せっかく栄寿さんと初体験しようと思っていたのに。
わたしは意気消沈して、玄関前で車を降りた。もなかさんが車をガレージに入れるあいだ、栄寿さんの暮らす別荘を見上げた。
窓の多い白壁の四角い箱のような建物が、丘の斜面を利用して階段状に三階層になっていた。まわりは樹木が茂っている。ルーフバルコニーにも木が植えられているのが見えた。建物の向こう側は海になっているはずだ。
この別荘にはこれまで来たことがなかったんだけど、予想してたのと違って、モダンアートっぽい建物だった。このあたりによくある古い洋館みたいなのか、大きな日本家屋みたいなのを想像していたんだ。そう思ったのは、もなかさんのメイド姿がクラシカルな雰囲気だったからってのもある。
もなかさんがガレージから戻ってくると、わたしたちは玄関から建物の中に入った。
スリッパに履き替えているあいだに、奥からもうひとりのメイドさんが出てきた。年齢はもなかさんと同じくらいだろう。ウエーブした長い髪にカチューシャを付けている。メイド服のデザインは、もなかさんが着ているものと細部が微妙に違うようだ。キツイ顔つきだけれど、もなかさんに劣らず美人だった。
「もなか! なんなの、この子は。中学生じゃないの? それとも六年生くらい? どういうつもりなのよっ」
と、新しいメイドさんがわたしを指さして言った。
「中学はもう卒業しました」
わたしはムッとして言い返した。失礼しちゃう。
Copyright © 2010 Nanamiyuu