「あら、うちのママが初体験をしたときは、いまのわたしよりふたつも年下だったんですよ」
わたしは笑顔で反論した。
「そもそも栄寿さまと莉子お嬢さまは、叔父と姪の間柄じゃあありませんか。いとこ同士ならともかく、三親等ですから結婚できないのですよ」
「やーねえ、もなかさんってば。そんなことわかってますよ」
ママはお兄さんとだったから二親等。わたしは父親とだから一親等だ。この点ではママに勝ってるな。むふふ。
実の父親なんだから結婚はできない。法律の上では確かにそうだ。だけど、愛しているなら、どんなことだって乗り越えられるはずじゃん。なんちって。
もなかさんはムスッとして、
「きのうのことをお母さまがお知りになったら、きっとショックを受けてお嘆きになるでしょう。よりによって叔父さまとだなんて」
うーむ、普通の感覚からしたらイケナイことだろうし、お説教したくなるのもわからないではないですよ。だから、もなかさんに腹を立てたりしませんが。
「ママは応援してくれてますよ。きっと、わたしがパパと結婚したいと言ったとしても応援してくれるわ」
「お父さまと結婚できるわけないじゃないですか」
「パパとは血がつながってないもの。ママと離婚して、わたしと結婚するのだってムリじゃないでしょ」
得意げに言うと、もなかさんがあきれた様子でため息をついた。
「血がつながってなくても、父親とは結婚できないのですよ。たとえ、ご両親が離婚したとしてもです。法律でそうなっているのです」
「うそっ、生物学的には赤の他人なんだから、結婚したって何の問題もないはずじゃないですかッ」
「生物学的に問題がなくても、倫理的に問題があるんです」
えーっ、そうなの? 正直、これにはショックを受けた。パパとだったら正式に結婚できると本気で思っていたんだ。
でも、法律的に結婚できないとしても、それほど問題じゃないけどね。神楽坂は近親婚が多いし、本家には叔父さんと姪とか姉と弟で結婚してる人もいるし。
そもそも、生物学上の父親とセックスした女に向かって倫理的にどうとかって話をしても無意味でーす。
「いいもん、事実婚で」
わたしがすまし顔で言うと、もなかさんは、たとえ法律が認めたとしても自分は認めない、と言いたげに、
「わたくしはセックスは興味本位でするものではないと思います。まだ経験はありませんが、愛する人との神聖な営みであるべきだと思いますわ」
わたしのことを真剣に心配しているのだろうとは思う。でも、わたしだって遊び半分の軽い気持ちでいるわけじゃない。考え方が違うってだけのことだ。お説教される筋合いじゃない。
ただ、もなかさんのセリフに引っかかるものを感じた。もなかさんとあずきさんの部屋にあったエッチな小道具を思い出したんだ。
「もなかさんは、あずきさんと愛し合ってるんですか?」
「ななななにを言い出すんですですですか!」
取り乱したものの運転から注意をそらさないところはさすがだ。だけど、どう切り返していいのか悩んでいる様子で黙ってしまった。
ふたりはレズビアンのカップルじゃないのかな? 同性愛者だけど、仕事だから仕方なく栄寿さんとだけはセックスするということじゃないのかな。
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