今度はあたしが呆ける番だった。
はあ?
なに言ってんの、優姫さんはどこから見ても美少女高校生……。
と、言いかけたが、肝心の優姫さんを見ると、困った顔で頭をかいている。優姫さんとお兄ちゃんの表情を交互に見比べた。冗談を言っている雰囲気ではないのだが、でも冗談だよね?
「だから、早瀬は男だって」
お兄ちゃんが容赦なく駄目押しする。
優姫さんは観念した様子で、例の屈託のない笑い声をあげた。
「もー、直人くんてばー。おとこおとこって言わないでよ。傷つくなぁ。わたしは心は女の子なんだし、外見だって女の子になるために努力してるんだからね」
えー?
「でもでも、優しい姫と書いて優姫さんって名前なんじゃ……」
「こいつの名前は早瀬雄喜。オスの喜びと書いて雄喜(ゆうき)だ」
「オスの喜びってゆーなー! その名前はコンプレックスなんだってば」
そう言って優姫さんはあたしに向き直ると、
「優しい姫って名前は好きな少女マンガの主人公からとったんだ。読み方が同じでも気分がぜんぜん変わるんだよ」
優姫さんは申し訳なさそうな表情で説明した。あたしは正直まだ状況を受け止めきれないでいたので、
「は、はあ」
そんなあいまいな返事しかできなかった。
記憶が蘇ってくる。早瀬雄喜、いや優姫と言ったほうがしっくりくるのだが、その名前には確かに覚えがあった。小学校低学年の頃、あたしはこの人と一緒に遊んだことがある。そのときは男の子だったけど。
「あの……、優姫さん」
優姫さんが男の人だというのは、いまだに信じられないのだが、それ以上に……。
優姫さんはお兄ちゃんのことが好きで、しかもしかも、あさってのバレンタインデーにお兄ちゃんに告白しようとしているのだ。
いや、そんなことより、お兄ちゃんのほうも優姫さんを前になんでそんなに赤くなってるの。
「なあに、まりもちゃん?」
それって同性愛ってことですか。
「あの……、女の子にしか見えません……」
「ありがとー、うれしい!」
優姫さんはあたしの手を取って、心底うれしそうに笑った。
あたしはどういうわけかひどく恥ずかしい気持ちになって、うつむいてしまった。
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