いけない進路相談 (24)

ふかふかしたベッドの感触を背中に感じた。そのやわらかさに包まれるような気がして、じっとしていると、だんだん緊張がほぐれてくる。

そっと目を開けた。

真琴に覆いかぶさるようにして矢萩が見つめていた。

優しい目だ。そんな目で見つめないでほしい。

あたしはこの人を好きになってしまったのだろうか?

「先生にだったら、犯されてもいいです」

ごく自然にそんなことをつぶやいた。

「そんなことしないよ。でも、それは俺がきみに魅力を感じてないってことじゃないよ」

矢萩にそう言われて、真琴はかすかに苦笑した。自分の計画はすべて失敗してしまった。それどころか、何もかも間違っていた。そう思った。けれど、じゃあどうしてあの時の操は泣いていたのだろう。

「図書室で操は泣いてました」

真琴が責めると、矢萩は脱力したように真琴の隣に腰をおろした。おもしろそうに何かを見ている。真琴の通学バッグだ。ベッドの上に放り出され、ビデオカメラとスタンガンがはみだしていた。

「なんとなくわかってきたよ。きみが俺をホテルに誘った意味が。大友さんがとても友だち思いだってことがね。でも、どうやら、ものすごく大きな誤解があるようだな」

真琴のしようしていたことのすべてを理解したらしく、矢萩はそう言って笑った。なんて洞察力に長けた人なのだろう、と真琴は感心した。

「操が涙を流していた理由は、その……、男の俺から説明するのはちょっとばかりおもはゆいな。本人に直接訊くといい。ただ、涙は悲しいことやつらいことがあったときにだけ流れるわけじゃないってことはわかるだろ?」

うれし泣きだったとでも言いたいのだろうか。意味がわからない、と思ったが、真琴ももう認めないわけにはいかなかった。矢萩は真琴が思っていたような悪辣な人間ではなかった。それは確信できる。

矢萩と操の関係は真琴が心配していたようなものではなかったのだ。

なんだか恥ずかしくてたまらない。

でも、じゃあ聡子の友だちが見たというのはなんだったのか。

「日曜日に女の人とデートしてたじゃないですか」

「あれは妹だって、昨日説明しただろ」

少し考え込んだあと、矢萩はポケットから小さな箱を取り出して、真琴の顔の前にかざした。

「今日、操と勉強会の約束をしていたから、そのとき渡そうと思ってたんだ。妹に意見を聞きながら選んだ。操が受け取ってくれるといいんだけどな」

真琴は起き上がると、その小箱を手に取った。

指輪。

では、本当に自分の勘違い、ただの勘違いだったのか。矢萩は本気で操を愛しており、操も矢萩のことを想っている。自分は、恋仲の二人をただ引っ掻き回しただけの、迷惑千番なおじゃま虫だったのだ。

そう思うと、自分が滑稽に見えるとともに安心した。

「話せばわかる、ってこと、世の中には結構あるんだぜ」

矢萩はそう言って笑った。真琴も苦笑した。もう笑うしかない。

「大友さんを見ていて心配になってきたんだよ。もしかして操はセックスへの興味で俺と付き合っているだけで、卒業したらすっぱり別れるつもりなんじゃないかってね」

「先生、それ以上あたしの親友を侮辱したら怒りますよ」

と、真琴は泣き笑いしながら言った。

それから真琴は自分でも思いがけない行動をとった。

矢萩に抱きついて押し倒すと、キスをしたのだ。

初めての唇の感触。

思い描いていたのとは少し違って、せつない気持ちが胸を締め付ける。

真琴は唇を離すと、矢萩の胸に顔をうずめた。

「ごめんなさい、先生。少しの間でいいです。思い出にする時間をください」

そう言って、真琴はかすかに肩を震わせた。

すべて誤解だったのだと安堵した真琴が矢萩に連れられて部屋を出たのは、ホテルに入って二十分と経っていないころだった。

真琴には世界のすべてが生まれ変わったように見えた。なんだかうきうきするような感じだ。止めようと思っても、勝手に頬がゆるんでくる。

すべて解決したのだと思った。

だから、ホテルを出てすぐ、矢萩の車の前に一人の制服姿の少女が飛び出してきたとき、真琴はその意味がすぐにはわからなかった。

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