留美の停学が明けた日、さやかと優奈が泊まりにやってきた。
玄関で出迎えた留美に、優奈は表面的には元気そうに見えた。でも、留美はどうしても優奈の奥にある苦しみを思ってしまう。
「なんだぁ、まだ元気ないな、留美。ひょっとして夏バテか?」
「きょうは留美ちゃんを励ますためのパーティーなんだよ。留美ちゃんがずっと元気ないって、さやちゃんが言うから。その……、わたしのせいで……」
優奈にそう言われて、留美は無理に笑った。
さやかが黄色のボーダータンクトップにホットパンツ姿なのに対して、優奈はカットソーに七分袖のサマージャケットを羽織り、下はジーンズだった。優奈が夏でも長袖にタイツを着用して肌の露出を避ける理由は、冷房が苦手だからではないのだと、いまはわかる。
「優奈はずっと留美のこと心配してたんだぜ。とりあえず食材を冷蔵庫にしまって、冷たいものちょうだい。外は死ぬほど暑かったんだよ」
留美はさやかから買い物袋を受け取った。さやかと電話で話しているときに、どういう会話の流れでだか留美が「餃子をたらふく食べたい」と言ったせいで、きょうは手作り餃子を作ることになったのだ。袋の中を見ると、ひき肉やニラや玉ねぎなどだった。
「おっ、餃子の皮、わざわざ買ってきてくれたんだ。って、業務用の大判が二パック、八十個も作るのか?」
「留美ちゃんは餃子が大好物だって聞いたから」
「あたしら若いんだから、そのくらいペロリだぜ」
一息ついたあとで餃子の餡作りに取り掛かった。
さやかがキャベツやニラやネギを手際よくみじん切りにしていく。その横で優奈がぎこちない手つきでニンニクをすりおろす。優奈は料理の経験があまりないようで、留美があれこれ教えながら作業を進めた。どんな料理もソツなくこなす留美だが、料理にはそれほどの関心はない。でも、優奈の一所懸命な姿を見ていると、協力して料理を作るのは楽しかった。
「これが野菜たっぷり餃子用、こっちは肉餃子、こっちのは皮に包むときにチーズを入れてチーズ餃子にするんだ」
さやかが出来上がった餡を優奈に説明した。
「チーズ入りの餃子なんて初めてだよ」
「これをしばらく寝かせるあいだに、そうだな、食べるラー油を作っちゃおっか」
「えーっ、食べるラー油って自宅で作れるの?」
「作り方教えるよ。まあ、二日くらい寝かせたほうがいいんだけどな。留美ぃ、空き瓶とかある?」
さやかは小学生の頃から料理が得意で、しかも凝り性で研究熱心だった。その上、本当に楽しそうに料理を作るので、優奈も感化されて活き活きとした表情を見せていた。留美はラー油を入れる空き瓶を用意しながら、優奈がこのまま楽しい時間を過ごしてくれればと思わずにはいられなかった。
[夏をわたる風]
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