「キモチ悪い子だって思ったんでしょ? だけど、あたしはこーゆー人間なんだよ」
「そーじゃなくてさ。そうやって恥ずかしがって布団にもぐりこんじゃうところが意外だって言ってんのよ。美星って、なんか超然としてて、誰に何を言われようと、どう思われようと気にしないタイプなのかな、って思ってたから」
「……」
恐る恐る布団から半分だけ顔を出す。三ツ沢さんが待ち構えていたように身をかがめてあたしを見た。
「学校でひとりエッチしちゃうほど大胆な子だとも思ってなかったけどネ」
と、三ツ沢さんは笑いながら言った。
邪気の感じられない笑い声に、あたしは布団をかぶったまま体を起こした。
「いつから見てたの?」
「五分くらい前」
「五分も!? ずっと?」
「ゴメン。わたしもどうしていいかわかんなくてさ。つい見入っちゃって」
三ツ沢さんはあたしのすぐとなりに座り直すと、
「さっき、美星からのメールを受け取ってさ、うれしくなって飛んできちゃった。美星が具合悪いって聞いて心配だったし。でも、まさか――。ねえ、それ、大人のおもちゃでしょ? 見せて。わたしもそーゆーの興味あるんだけど、実物は見たことないんだ。けっこう持ってる子も多いのかなぁ」
「別に話を合わそうとしなくてもいいよ。キモチ悪い子だって思うならそれでもいい」
「そんなこと思ってないって。文化祭のとき、ゴメンネ。あのとき美星は三年のストーカー男子のことで悩んでたんだよね。そうとも知らずに距離なしすぎる態度で迷惑かけたね。ずっと謝りたかったんだけど、『もう話しかけないから』なんて言っちゃったから、どうしていいかわからなくて。ずっと気にしてたんだよ。メールしてくれて、すっごいうれしかった。だから、わたしと仲直りしてください」
どうも三ツ沢さんが何を言っているのかよくわからない。
あたしはパンツを穿いてブラをなおすと、布団から体を出した。
「あたしはたぶん三ツ沢さんが思ってるような人間じゃない。本当のあたしを知ったら、友達になりたいなんて思わないよ。本当のあたしは弱くて、醜くて、汚い。でも、そういうふうにしか生きられない」
あたしが深刻な顔で言ったのに、三ツ沢さんは、プッ、と吹き出した。
「美星のそういうとこ、ほっとけないんだよね。わたし、一学期からずっと美星のことが気になってた。誰ともつるまないで、謎めいてて、悲しそうで。でも、ひとりにしておけないって思った。それに美星って、なんかカッコいいし、美少女だし。ひとりでいられるっていうのも、強い人間だからだと思う。ちょっと憧れる」
「そんなことないよ。三ツ沢さんの方が人気者で、明るくて……。そうゆう人の方がしあわせになれると思う」
「わたしね、高校デビューなんだ。前は地味で人ともぜんぜん話せなかった。いまだって上滑りしてるとこあるし、中学のときの知り合いには陰口たたかれることもある」
三ツ沢さんの突然の告白に固まった。ウザイほどよくしゃべるこの子が中学時代は地味子だったというのは驚きだ。それ以上に、それをわざわざ打ち明けたというのと、自分のことを案外客観的に見てるというのに驚かされた。
三ツ沢さんは自分の言葉があたしに浸透するのを待つように間を置くと、
「なりたい自分が本当の自分。わたしの尊敬し目標とするある女性がそう言ってた。その人のようになりたいと思って、その人のようになろうと決めた。まあ、わたしのお姉ちゃんなんだけどね。なかなか思うようにはならないけど、自分はいくらでも変えられるって思うし、変わりたい」
「素敵なお姉さんなんだね。あたしは一人っ子だから、姉妹とかわかんないけど」
たぶん本当にいいお姉さんなんだろう。だから、お姉さんのようになりたいと思う自分のことも信じられるんだろう。ウザイと思うこともあったけど、この子はこの子なりにブレてない。うらやましいと思った。
「ところで美星はよくひとりエッチするの? わたしさ、最近そういうことにすごく興味出てきて、その……、バ、バイブ……欲しいなって思ってたんだけど、そーゆーのって、ど、どこで買えばいいんだろ」
三ツ沢さんが顔を赤くしてどもりながら言うので、こんどはあたしが吹き出した。いまの恥じらいは演技じゃないだろう。
「通販で買えるよ。最初はバイブレーターよりローターがいいと思う。バイブは挿入しないといけないしね。セックスの経験があるなら別だけど。ひょっとして三ツ沢さんって、もう経験済?」
「それは……ッ、その……、どうだったかしらね」
真っ赤になって質問をはぐらかそうとする。間違いなくバージンだ。
あたしはこの子が好きになった。
「ありがとね、三ツ沢さん。心配してくれて。来てくれてうれしい」
それは本心だった。三ツ沢さんに伝わってくれたらいいのだけど。
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