第16話 世はなべて事もなし (09)
「俺もこんなに満足できるセックスは数年ぶりだ。きょうは普通に最後までできた。途中で暴発することなく」
先生はアレを抜くと、膝の上にあたしを載せて、やさしいキスをくれた。
「よかったね、先生。何かお薬を飲んでるの?」
「いや、薬の世話にはなってない。もともと精神的なものだったろうからな。美星と付き合うようになってから、心が軽くなったのかもしれない。いまの俺がこんなに充実した毎日を過ごせるのは、ぜんぶ美星のおかげだ」
あたしは急に不安になって先生の胸に顔をうずめた。
「先生の力になれたのならうれしい。これからもいっぱいエッチなことしてくれる? まだ、あたしのこと捨てないよね?」
「ああ。もっと二人で楽しいことをしよう、美星」
そう言って先生があたしの頭を撫でた。
援助交際でしかできないことがある。援助交際をしてるあたしにしかできないことがある。あたしは藤堂先生の役に立てた。先生の人生で大切な役割を持てた。だったら援助交際をしてるあたしの人生にも意味があるというものだ。
あたしは援交少女。
あたしの世界はここにある。
別に殺し屋の真似事をしたいわけじゃない。
セックスしかできなくても、それで誰かを助けることができる。
あたしはあたしにできることで、誰かの役に立てる。
そうすることであたしもちょっとだけ幸せになれる。
いまみたいに先生と肌をあわせているとやさしい気持ちに包まれるんだ。
「先生がお父さんになってくれたらいいのにな……」
あたしのつぶやきを、先生は聞こえないフリをした。
ホームルームが始まっちゃうので、あたしたちは服を着て図書室を出た。セックスをしたカップルは雰囲気でわかるというけど、あたしと先生はどうなんだろ。イッた後だから先生への気持ちでいっぱいだ。バレちゃうかもな。それもいいかも、なんて思ってしまうのがこの気持ちの問題点なんだよね。
あたしは誰かとすれ違う前に先生から離れて、一人で教室に戻った。
ホームルームのあいだ、先生のことをうっとりと見つめていた。学校でするセックスはクセになる。ものすごくスリルがあって、とんでもなく楽しい。こんどはどこでしようかな。放課後の教室なんていいんじゃない? テスト期間中ならチャンスもありそう。
なんてことを考えていたのだけれど、先生はテスト期間中は準備やら採点やら研修やらで忙しいんだと言って相手をしてくれないつもりのようだった。まあ、あたしも太ももに縄の跡が残ってることに気づいてちょっと正気に戻ったけど。制服のミニスカートから覗く緊縛プレイのなごり。これはこれで妙味だ。でも、誰かに気づかれたらマズイもんね。あせらなくても、これからいくらでもチャンスはあるだろう。
翌日はテスト前日のため、授業は午前中で終わった。この日は美奈子ちゃんと一緒に性病の検査に行った。美奈子ちゃんが本格的に援助交際を始めたので、なじみのクリニックを紹介してあげることにしたのだ。やっぱり病気は怖いし、感染の可能性はあるから、毎月検査をしている。風俗嬢やAV女優がよく検査にくるところなので、お医者さんも事情はわかってる。あたしが未成年なのも感づいてると思うけど、あれこれ詮索はしてこない。むしろ、ちゃんと検査に来て偉いね、とホメられちゃうくらいだ。
「検査項目がたくさんあるみたいですけど、どれを受ければいいんでしょうか」
美奈子ちゃんは初めてで戸惑ってた。性病検査自体には「なんだかプロっぽいです」と感心していて、抵抗を感じてはいないようだ。
「このセットでいいよ。クラミジア、淋菌、梅毒、HIV、B型肝炎、あとカンジダとトリコモナス」
「なるほど。業界向けのメニューが用意されているんですね。わかりやすいです」
「美奈子ちゃんは経験人数、何人くらい行った?」
「一条さんを含めても三人です。お父さんを入れて四人。沙希ちゃんみたいにおおぜいの男性を手玉に取ることに憧れますけど、わたしのことを知っている人に当たることもあるかもしれないので、あまり人数を増やすのも危ないかなと思って」
おおぜいの男を手玉に、って、この子はあたしを何だと思ってるんだろうか。
「危険を感じるセンスは大事だよ。美奈子ちゃんはS級美少女だからリピーターになってくれる男性も多いだろうし、相手を厳選して太パパ狙いで行ってもいいんじゃないかな。変な人と会って雑誌モデルだとバレたら脅迫とかされて本当に危ないことになるかもしれないもの」
あまりそういうことは考えたことはなかったのか、美奈子ちゃんが目を丸くした。
「沙希ちゃんは危ない目に遭ったことがあるんですか? あ、そういえば以前、ホテルで二人組の男に襲われそうになったって話してましたね」
そう言われて一瞬、どの事件の話だっけ、と考えてしまった。よく考えなくても、あたしはけっこう危ない目に遭ってるな。
「美奈子ちゃんは、もしも集団レイプされたらどうする?」
[援交ダイアリー]
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