第12話 エンジェルフォール (15)

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 援助交際をしていると怖い目に遭ってしまうこともある。だけど、ヤリモクの人を除けば、ほとんどの男の人はやさしくしてくれる。ちゃんとした人を選べばいいだけ。閉鎖されてしまった『魔法の掲示板』は、そんなステキな紳士に高確率で出会える稀有な場所だったんだけどな。

 というわけで、きょうは藤堂先生とデート。

 先生と出会ったのも『魔法の掲示板』だった。先生は大学時代の友人から掲示板のアドレスを教えられたそうだ。友人は不倫相手を探すのに掲示板を利用していたという。先生はその友人から、真面目ぶってないで素人の若い女性と遊んでみろ、と勧められたんだそうだ。職を失って落ち込んでいた先生を元気づけるためだったらしい。

 そうして先生が選んだのが、当時まだ本格的に援助交際を始めたばかりだったあたしというわけ。その先生がいまはあたしのクラス担任だ。

 運命って不思議。

 先生は車で迎えに来てくれた。コンパクトな国産のファミリーカー。どういう口実で出てきたんだろうね。奥さん大丈夫?

 あたしはライトグレーのロリータジャンパースカートにケープを羽織り、頭には大きなリボンのついたヘッドドレス。白のガーターストッキングにヒールパンプス。

 街を歩くにはちょっと勇気がいるファッションだけど、車だから平気。

 車に乗って助手席からキスをすると、先生はあたしのことを可愛いと言ってくれた。

 すごくうれしい。

 夕方までずっといっしょにいられる。

 うんと楽しませてあげなきゃ。あたしもいっぱい甘えさせてもらうもんね。

 高速道路を通って二十分ほどでウォーターフロントへ。

 ホテルのチェックインまですこし時間があったから、海辺の公園をお散歩。

 春から夏へと季節が切り替わっていく時期。

 穏やかに晴れていて、潮風が気持ちいい。

 ちょうど大型クルーズ船が停泊していたので、それを見物しに国際客船ターミナルに行った。ここは屋上が広々としたウッドデッキになっている。何組ものカップルや家族連れがくつろいでいた。目立つ格好をしてるとちょっと恥ずかしい。モデルの撮影会とでも思われていそう。

 あたしたちは丘のように起伏のあるウッドデッキの先端まで歩くと、並んで腰を下ろした。観光地だし市内だから知り合いに見られちゃう可能性があったけど――。

 お日様の下で抱き合ってキスをした。

「あたし、藤堂先生のことが好きです。この気持ちは……、恋だと思います」

 先生は戸惑ってる。何を言ってもあたしを傷つけてしまうと思ってるみたい。

「ゴメンナサイ、先生を困らせるつもりはないです。先生との関係は恋人ごっこという契約だし、これはあくまで援助交際なんだから。片想いでいいんです。一年前のあたしは恋をする気持ちなんて持てなかった。だから、いま誰かを好きだと思えることがすごくうれしいんです。それでね……」

 あたしは不安を感じながら話をつづけた。

「それで、援助交際をしていると、素敵な男性と巡り会えることがあるんですよ。体を求めるだけじゃなくて、心も受け止めてくれる人。そういう人に会うと、あたし、恋しちゃうんです。先生のこともそう。いまこの瞬間は先生に恋してる。でも、あした誰かに抱かれたら、その人にも恋をしてしまうんです。買われたのに、複数の人に次々に恋をしちゃうんです。あたしはおかしい子だと思いますよね」

「カネを払って教え子と不倫している俺に何か言う資格があるとも思えないが、ポリアモリーというのもあるし、美星がおかしいとも言えないだろう。お前は愛情を必要としているのだし、お前が生きる希望を持てるようになったのなら、世間がおかしいと思うようなことでも気にすることはない」

 先生ならそう言ってくれると思ってたけど、ちゃんと言葉にして言ってもらえるとやっぱりうれしい。

 あたしは満面の笑顔を見せた。

「だから先生のこと好きなんだ。ねえ、先生。あたし以外の子と援助交際をしてみたくない? あたしは先生にほかの子ともヤラせてあげたい」

「小川のことを言っているのか? あいつも俺を誘っていたが。美星におとらず小川もかなりの美少女だ。本当にあの子は援助交際をしているのか?」

「きょうは男の人と会うと言ってたから、いまごろどこかのホテルで抱かれてる。あの子、けっこう高い料金とってるんだよ。でも、先生ならきっと割り引きしてもらえるよ」

「俺は美星ひとりのことさえ満足させてやれないんだぞ」

「緊縛プレイをすればいいじゃん。教え子をつぎつぎ毒牙にかける極悪教師だね。実は他校の生徒で縛られて犯されてみたいって言ってる子がいるんだ。すごくカワイイ子だから、こんど紹介してあげる。先生のウハウハJKハーレムを作ろうよ」

「大人をからかうな」

 と言いつつ、先生も興味ありそう。

 援助交際だから、こんな面白そうなことだってできるんだ。

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