次の日。あたしは六時間目の授業を早退して、ホナミさんの通う高校へ行った。
好きな子が援助交際をしてるなんて知ったら快斗くんはすごく傷つくだろう。だから、もっと注意するようホナミさんに釘を刺した方がいいと思ったんだ。それに同じ援交少女なら対等のライバルだ。まちがっても快斗くんを取られたくない。
膝丈スカートの紺セーラー服に、白のスカーフと白のソックス、赤のダッフルコートといういでたちで門の前で待った。目立つ格好だからホナミさんにもあたしが会いに来たことがすぐにわかるはず。
思ったとおり、学校から出てきたホナミさんはすぐにあたしに気付いた。最初びっくりしたような顔をしたけど、しばらく逡巡したあげく、意を決したふうであたしの方へ歩いてきた。顔が緊張でこわばってる。
「ごきげんよう、ホナミさん。リサさんと呼んだ方がいいのかしら」
「こんにちは。リサでけっこうです。昨晩、ショウマさんといっしょにいた方ですね。わたしのことをご存知のようですけど?」
「塾の前でいつも見かけてますから、名前くらいはね」
そう言って肩をすくめてみせると、ホナミさんはますます不安そうな表情になった。援交がバレたと思ってるんだから無理もない。
あたしたちは近くにある公園に行って話すことにした。公園の木々は葉を落としていたけど、バラ園にはちいさなバラがいくつも咲いていた。一月だから外でおしゃべりするのは寒い。でも、ほかの人に話を聞かれる心配をしなくてすむ。
展望台の手すりにもたれて港を見下ろしながら切り出した。
「あの……、リサさんは援助交際をしてるんですよね?」
ホナミさんは黙ったままうつむいた。沈黙が意味する答えはイエスだ。
「リサさんの学校って、校則がすごくきびしいんでしょ? 男と会うときはもうすこし用心深くなった方がいいと思いますけど。塾に通ってる子たちに援交のことがバレたら大変です。現にあたしは気付いちゃったわけだし。すごく美人で目立つ方ですから、見てる人はいますよ」
「まさか、ほかにも気付いてる人がいるんですか?」
「いいえ。でも、気をつけた方がいいです。あたしたちがしてることは社会は決して受け入れてはくれない。バレたら破滅なんですから」
ホナミさんは目を丸くして胸の前で手を合わせた。
「じゃあ、あなたも援助交際をしてるんですね? ショウマさんのお知り合いらしいからひょっとしたらと思っていましたけど」
「まあ、その……、はい。援交してます。えへへ」
「ああ、よかった! 通報されるんじゃないかと気が気じゃありませんでしたよ。わたし、援助交際をしてる人と話すのは初めてなんです」
いつもの元気な表情を取り戻したホナミさんがあまりにうれしそうに見えたので、あたしは照れ笑いしながら、ほっぺたをかいた。
あたしは何人か援助交際をしてる子と知り合ったことがある。けど、ミッション系のお嬢さま学校に通う美少女なんて初めてだ。近くで見るホナミさんはほんとに美人だった。背中までのびた黒髪はあたしと同じくらいの長さだ。けど、ストレートのあたしと違って、なめらかなウエーブがとてもかわいらしい。整った顔立ちは上品で、立ち居振る舞いのすべてに育ちの良さを感じさせる。なにより、くりくり動く表情豊かな瞳が魅力的だった。健康的な輝きが内面からあふれ出ているようだ。
あたしはホナミさんに興味が出てきた。
「ショウマとはいつから?」
「秋頃、朝の通学電車でショウマさんに痴漢されたのがきっかけ。すごく気持ちよかったから、立ち去ろうとする彼の手を思わず握っちゃった。そのままホテルに行ってエッチ。それ以来、何度もリピートしてもらってます」
「あたしのときと同じだね。夏のはじめ、休みの日に電車に乗ってたらあいつに痴漢されて、パンツ脱がされてイカされたのね。そのままホテルに連れ込まれてヤラレちゃった。すごくよかった。それでしばらく付き合ってた。まあ、デートのたびにお金はもらってたけど。あいつって、強引なところがあるけど、金払いはいいじゃないですか」
と、あたしが笑うと、ホナミさんも笑った。
「どういうつもりなんでしょうね。彼が女の子を買うのは性欲を満たすのが目的じゃないように思えます。大切に扱ってくれるからショウマさんのことは好きですけど、彼の方は女の子にあまり執着してないみたいだし。お金持ちらしいけど、ちょっと得体の知れない人です」
「たぶん、ショウマは女の子を開発するのが好きなんですよ。あたしたちとショウマの関係って、売り手と買い手というだけじゃないけど、疑似恋愛みたいなものでもない。あたしが思ったのは、楽器と調律師の関係。ショウマは目をつけた少女を名器に仕上げることに生きがいを感じてるんじゃないかな。お金をくれるのは、楽器の立場を忘れさせないようにするための、彼なりのこだわりなんだと思う」
「わたしたちって、同じ男性に開発されてるんですね」
と、ホナミさんは上品な笑顔で言った。
[援交ダイアリー]
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