第8話 バイブであそぼっ (02)
バイブレーターは透明な素材で作られていて、長さは二十センチくらい。根本のところが二股になっていて、短いほうはよく見るとウサギをかたどってあった。ちょうど、アレの根本に小さなウサギがつかまっているように見える。このウサギは男の人のタマタマの袋を表しているのだろうか。
長いほう――アソコに入れるほうは、小さな銀色の玉が組み込まれているのが透けて見える。大粒の真珠のような玉が、棒状の部分をリング状に取り巻くように何列にも並べられていた。先端部分は亀頭の形になっている。
透明な部分の下に白いプラスチック製のケースが取り付けられていて、ボタンがいくつか付いていた。たぶん中に電池を入れるのだろう。
「お父さんのアレより大きい……」
「うわぁ、莉子ちゃん、オトナな発言だね」
思わずつぶやいてしまったのを、あずきさんにからかわれた。きっと顔が真っ赤になってる。
「莉子ちゃんが栄寿さんとセックスした話を聞いて、なんか、あたしもエッチな気持ちになっちゃったんだよね。初めてのセックスがお父さんとだなんて、どんな気持ち?」
「うーん、初体験のときはまだ実の父親だとは知らなかったんですよね。初めての相手がお父さんでよかったって思います。こんなの変だと思いますか?」
あずきさんは笑い出して、背中からベッドに倒れこんだ。
「ぜんぜん。むしろうらやましいくらい。あたしの両親は小さいころに事故で死んじゃったからね。お父さんの顔もはっきり覚えてないんだ」
「そうだったんですか」
どう返したらいいかわからなかったので、そんなあいまいなことを言った。あずきさんは別に悲しそうな顔はしなかった。必要以上の同情は迷惑なだけだろう。
「一応、親戚の人があたしの面倒を見てくれたんだけどね。あまりいい思い出はないな。中学を出たら働こうと思って、勉強だけは一所懸命にやったんだ。そのおかげで夏目さんが援助してくれることになって、高校に行けることになったんだよ。もなかと出会ったのも、その高校の寮だったんだ」
「もなかさんのご両親も……?」
「あの子の両親は生きてるよ。ただ、もなかの場合は家庭の事情が複雑でね。あたしより辛い思いをしただろうな」
あずきさんが言葉を切った。
本人のいないところで聞いていい話じゃなさそうだ。ただ、どんな事情があるにしろ、それに付けこんでふたりを娼婦として扱っていいはずがない。お父さんがそんなことをしなくてよかった。
「高校生活はほんとに楽しかったし、あたしにとっても有意義な時間だった。夏目さんにはいくら感謝しても足りないくらい。あたしさ、栄寿さんのお兄さんに弟を助けるために体を提供してほしいって言われたとき、それで恩返しができるならいいと思った。あたしでも何かの役に立てるなら、ってね」
わたしは黙ったまま、あずきさんの顔を見た。
「どーなっちゃうのかなぁ」
「なにがですか?」
あずきさんは答えるかわりに起き上がると、
「莉子ちゃんはオナニーってする?」
と、またいたずらっぽい笑顔を見せて訊いてきた。
どう答えるか、ちょっとだけ迷った。けれど、あずきさん相手になら、もうあけっぴろげに話しちゃっても構わないだろう。
「わたし、覚えているいちばん古い記憶が、オナニーなんですよ。幼稚園にも行かないうちから、アソコをこすると気持ちよくなるっていうのを発見して、こっそりオナニーしてました」
「へえー、すごい。あたしは高校に入ってからだよ。ほら、触っていいよ」
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